「慣れって、こえーよなぁ・・・」
秀がこんなことを言っていたのを覚えている。
結婚3年目で、一人目の子供が出来るちょっと前のことだったと思う。
大恋愛の末、結ばれた二人。
それでも、やっぱりそういう時期は来るもんなんだな、と思った。
まさか自分にも同じ時期が訪れるとは露知らず。
秀はその後、奥さんの妊娠がわかり、空気は一変。
立て続けに二人目も生まれて、今は4.5人家族でてんやわんやの日々を
送っている、らしい。
けれども僕らでは、そういった画期的な変化は望めるはずもなく。
だから、慣れてきてしまったら、そのままずるずる行くか、すっぱりと
関係を解消するしかない。
とにかく慣れは、楽チンだ。
別に毎日刺激が欲しいってわけでもない。
適度に楽しいし、普通に喧嘩もする。
それでも、この日々が死ぬまでずーっと続くのかと思うと、
たまに、薄ら寒い気がして、ほんとにこれでいいのか自分?
とも思う。
何言ってんだよ、それでいいんだよ、と言う自分と、
そうだね、別の道も考えてもいいんじゃない?
という自分がいて、これまた困る。
僕らが別れることは非常に簡単だ。
何の社会的な拘束がないから、それこそ今すぐにでも、
はい、さようなら、で、終わりにできる。
じゃあ、何故そうしないのか?
理由は、どこにあるんだ?
そもそも僕らが二人でいることの意味って何なわけ?
疑問や不安が、突然溢れてどーっと押し寄せてくる。
そのうえ、そんなことを考え出す自分が怖ろしくなってきて。
ところが、だ。
そのうちに、考えること自体が面倒になってくる。
で、まーまだいっか、となる。
そんなことを繰り返して早ん年だ。
そして今夜も、目の前で、わかめを絡ませたままの箸を握り、
だらしなく大口をあけ後ろにそっくり返って眠りこけている
相方を見て、僕は納得する。
僕の幸せって、結局のところ、こんなもんなんだよね、
悪くない、と。
END
屋根裏部屋の入り口へモドル
文章部屋の目次へモドル
リビングへモドル
ニッキへモドル