僕らの休日

「あー・・・そういやぁさぁ・・・」
「あん?なに?」


土・日・祝の3連休。


それぞれが社会人になって早十ん年。
大人としてのしがらみも増え、休日もなく働く日々も多く、業種の違う僕らはその分すれ違いも多い。
ところがなんとこの3日間は、大変ラッキーなことに二人して休みをゲットすることができた。
年末年始や、GWですらまともに顔を合わせられなかった二人にとっては、奇跡のような出来事だ。
そんなわけで、あまりにも久々なことだったため、僕らは初め、大人げもなく浮かれて、旅行の計画まで立てそうになった。


・・・でも、よくよく考えてみたら、たったの3日。
移動を考えたら、実質本当に休めるのは、中日の1日だけ。
しかもきっと、どこもかしこもうんざりするほどに混み合っているに違いない。
道路は渋滞、サービスエリアの食事処では空き席を探してウロウロして時間を食い、目的地に着いた頃にはグッタリ・・・お風呂に入って、定番の旅館料理を食べて寝て、寝坊も出来ずに、旅館の食事時間には起きて、その後ちょっと寛げればいいほう、観光なんかに行ったら、またあちこちで列に並んで・・・前日と同じことを繰り返し、帰りは帰りで、出発日と同じことを逆方面に向かってやる・・・、ということになるだろうと気付いて、僕らは顔を見合わせ苦笑した。
もちょっと若い頃なら、それでも十分楽しめただろうし、実際、日帰りや深夜出発の1泊2日の強行軍だって大満喫できた。
けれども、認めたくはないが、僕らも年をとったということなのだろうか、同時取得の連休に盛り上がった空気は、PCに映し出された旅行プランを前にして、あっさりと萎んでしまった。


で、結局は、自宅近辺で、のーんびり過ごすことにしたのだった。


子供でもいたら、また違っていたんだろうな・・・、なんて、せん無いことを、これまた久しぶりに、ふいと思った。
昔だったらここで妙に落ち込んだり不安になったり、モヤモヤとしたものに支配されて、相方に当たったりした僕だけれど、今はもうそんなことはない。
これが僕の選択した生き方だと、自信を持って言えるまでになったし、この隣にいるタレ目と一生を共にすると決めたことに後悔もない。


旅行となればたったの2泊3日でも事前準備は必要。
けれど、その必要がなくなって、ウキウキ感もなくなったけれど、その分休み前からゆったりとした気分になった。


こいつと3日間ベッタリなんて、いったいいつ以来だろう。
そう思ったら、意外なことに、少しドキリとした。


そうして、この連休を自宅で過ごすことにしたお陰で、日常生活を送るうちに少しずつ溜まっていた、些細で細々とした“やらなければいけないこと”も、やっと片付けることができた。
それに、二人一緒のおつかいの帰り道、近くの公園に寄り道して、売店でアイスを買って、木陰のベンチで並んで食べる、なーんて超ベタなことを、何年かぶりにもできた。

当麻は、先に食べ終えたアイスキャンディーの棒をプラプラさせながら言った。


「そういやぁさ、昔は俺の誕生日のほうが祝日だったんだよなぁ・・・」
「は?君の誕生日の『ほう』??・・・僕の誕生日だって、いまだに祝日じゃないだろ」
「まぁ、そらそうなんだが、けど、今日ってなんか、お前のための日みたいじゃないか」
「・・・あぁ・・・なるほど、そういうこと、ね」
「うん。で、思ったわけだ。昔も今も、俺たちのうち、どっちかの記念日が、祝日なんだなぁ〜、って。そしたらなんだか嬉しくってさぁ」


彼、当麻の言う『僕のための日みたいな祝日』とは、いまいち存在感としては薄く、昔、僕らが戦っていた頃にはなかった祝日だ。
一方、彼の誕生日である10月10日は、昔はその日が祝日だったけれど、2000年からは、10月の第二月曜日が祝日『体育の日』となっている。
法改正が決定した時の当麻の落胆ぶりは、今思い出しても笑える。
あれからもう12年も経つ。

僕らの付き合いはそれ以上だ。


「ふーん・・・、なんだか、わかるんだかわかんないんだか、わかんない理屈だけど・・・。つか、すごい、今更なことだよね・・・。当麻・・・やっぱ君って、いつまでも面白いわ」
「そか?」
「うん」
「へへっ、お前が、飽きずにいてくれて嬉しい」
「ぷ・・・っ、なんだよそれ〜」
「口説き文句」
「あ、こらっ、やめろって!」


囁きつつ寄せてきた肩をはじき返す。
こんな公の場で、こいつときたら、僕が嫌がるのをわかっててやるから質が悪い。


「えーっ、じゃ、帰ったらいい?」
「ダメ!明日はもう仕事だろっ」
「あ〜あ〜、連休があと365日続けばいいのにぃ〜」
「長すぎだっつの・・・体力ももたないよ・・・」
「ぉわっ・・・!伸てば、エっロぉ〜い!」
「―――っ!何、勘違いしてんだよっ、そうじゃなくて、君に付き合う体力が・・・って、ああっ、違う違うっ、だから・・・っ」
「わかってるわかってる、うんうんうん」
「わかってない!・・・ったくもぉっ、こういう場所でこの話題、そのニヤケ顔、なんとかしろっ」
「ぁでっっ」


彼が玩んでいた棒を引ったくり、ついでにゲンコでその賢い頭を殴り、ゴミ箱に向かう。
後ろでは、二人分の買い物袋を持ち上げる音がする。
どうせ奴の顔はニヤケたままだろう。目に浮かぶ・・・。
そして、その顔を思い浮かべた僕の顔も・・・怒ってはいない。


嗚呼まったく・・・、こんなアホなやりとりをどれだけ続けてきたことだろう。
でもって、きっとこれからも続くんだろうな・・・。


・・・続くと、いいな、なーんて、本気で考えてる自分が、間抜けで可愛いと思えるようになったのは、何時頃からか。
人間、変われば変わるものだ。




木陰から出ると、午後の日差しが眩しかった。
確かに、海が恋しくなるようなお天気。




僕らの休日の最終日、7月の第三月曜日は、『海の日』ハッピーマンデー。






END





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