疑 問


ねっとりと舌を絡ませ、幾度も角度を変え、互いを深く味わう。

足りなくなった酸素を求め逸らした顎を捕え、口内を貪る。


シャツを羽織ったままの背に手が惑った。



女とは明らかに違うその力。



俺は目覚めるように思い出した。



今、俺のベッドで、俺に組み敷かれているこいつは、嘗て共に同じ敵を相手に戦った仲間であるということを。


同じ戦士であったということを。




キン・・・と、頭の奥に冷たい塊が生まれた。



しかし、身体の中は、既に熱く火照っている。

そんなことを思い出したからといって、この衝動が治まることはない。

この瞬間に、そんな事実はどうでもいい。





俺の下にいるこいつと交わる、そのことだけを考えればいい。

いや、何も考えずに、ただひたすらこの行為に没頭するのだ。






―――俺を満たすために






気だるげな空気だけを纏った白い背中。
淡い光と湿った体温を立ち上らせている。
程よく引き締まったそこに浮き出た骨々。
俺はそれに興味をそそられた。
7頚椎から肩峰、肩甲骨を巡り、背骨をなぞり、尾骶骨へ。
ひとつひとつに唇を押し当て、ゆっくりと、確かめるように下りてゆく。


少し疲れさせすぎたのだろうか、彼はされるに任せている。





彼を堪能した俺は、隣にごろりと仰向けになった。

すると、俺が放れるのを待っていたのか、伸が言った。



「・・・考え事、してただろ?」



目を瞑り、顔の半分を枕に埋めた彼の声は掠れている。



俺は肘をついて横向きになり、改めて横たわる男を見た。



「・・・さすが。よくわかったな」

「まぁね」
「聞きたいか?」
「別に」
「聞けよ」


彼が、ふんと鼻で嗤った。



「お前・・・何故、俺とこうなった?」

「・・・それはまた随分と、今更な話だね」
「まぁな」
「・・・別れたく、なった?」
「そりゃまた・・・えらい急展開な話だな」
「まぁね」
「別れたいのか?」
「そう、だね・・・別に、構わないよ」
「なんて冷たい奴」
「君と別れても、生きてはいけるからね」
「・・・そうか・・・」
「けど、たぶん、寂しいと思うとは思うよ」
「それは・・・安心した」
「それで・・・?当麻は?」
「俺?・・・俺は・・・、そうだな・・・・・・、お前を手放したくない」
「それは・・・嬉しい、かな・・・」
「よかった」


「俺たちは何故こうしているんだろう・・・」

「わからない」


「わからないのに、抱かれるのか?」

「わからないくせに、抱いてるんだろ?」
「ああ・・・そう、だな・・・」
「だろう」






戦いに明け暮れる日々。

滅茶苦茶な10代。
あの頃から俺は、こいつに入れあげていた。
同じ性を持つこの男に、何故それほどまでに執着し、固執したのだろうか。


こいつを手に入れたい。

その一心だった。


そして伸は、俺を受け入れた。



伸は男に抱かれる自分に疑問を持ったことはないのだろうか・・・。

いまだかつてそれを本人に問うたことはない。


いや違う、我武者羅に求める俺が、彼を押し広げた。

伸は、俺を受け入れざるをえなかった。


では何故俺はそうしたかったんだ。



彼を征服したかったのか。

彼に縋りたかったのか。


彼を奪い、彼を独占したかった。

そのために、彼を社会から切り離してやりたいとすら思った。




今でもそう思う。





伸が寝返りをうち、身を寄せてきた。

少し冷めた指先で、俺の唇と輪郭をなぞる。


俺は彼の腰をゆっくりと引き寄せ、その柔らかな髪に覆われた頭に鼻先を埋めた。



彼と俺の脚が交叉する。

俺と彼の体温が同化する。


「君は・・・僕を、愛してるんだよ」

「そう・・・なのか・・・?」
「そうだよ」
「・・・そうか」
「そう」

「じゃぁ、伸は?」
「・・・僕?」
「伸は、俺をアイシテるのか?」
「そうだね・・・、それは・・・どうかな・・・」
「お前は、ズルイ」


俺の腕の中で彼が笑った。



「・・・そうだよ」





彼を繋ぎとめておくためなら、俺は何でもする。





それだけは、確かな答えだ。




END





目次にモドル

Topにモドル