君と僕の二週間

『何が欲しい?』




なんて訊かない。




あいつと付き合いだして、かれこれもう6年。


いいかげん僕だって学習する。


誕生日プレゼントというのはだいたい、年月が重なれば重なるほど難しくなっていく。
つまりネタが尽きてくるのだ。
僕等のように結婚して子供を作れない関係の場合には尚のことだろう。
けど、僕の恋人(と、言うのはいまだ恥ずかしいものがあるけど・・・)は、違う。
何故なら、それは・・・、




毎年、同じだから。




過去5年間は、一応確認をとってきた。
その時期は大よそ、彼(と、言うのもいまだに慣れないけど・・・)の誕生日の二週間前。


「誕生日、何が欲しい?」
「誕生日に欲しいものはない?」
「誕生日に欲しいものとか、ある?」
「誕生日、欲しいもんあったら言って?」
「誕生日さー、なんか欲しいもんない?」


と。


もちろん、自分で考えての贈り物も、ちゃんと用意している。
でも、ハズシたくないから、念には念を、というつもりで訊ねていたわけなのだが。


だが、応えはいつも一緒だった。


「ん〜・・・、せやなぁ〜、・・・・・・お前?」


だ。


そう、彼が欲しいものは、・・・自分で言うのもなんだが、毎年


“僕”。



よくもまぁ、恥ずかしげもなくそんなことが言えるもんだと、毎度呆れる。
そして何故、答えは決まっているくせに、毎回悩むふりなんかするのだろう、とも思う。


そりゃ、最初の1・2年は、小っ恥ずかしいながらも、ちょっとは嬉しかったりもした。
だって、まがりなりにも、“付き合っている”んだから、僕はお前のもんだし、お前は僕のもん、だろ?・・・・・みたいな?
あ・・・(汗汗汗)
えー・・・、まぁ、それはさて置き。

けど、3年目には、もう同棲(・・・という言葉もいまだこそばゆい)してたし、一緒に暮らしてるのになんでだ?、という疑問ほうが先立って、4年目5年目に至っては、言う前から、どうせ僕なんだろうな・・・と、わかっていたので、ほぼ惰性で訊いていたにすぎない。




だからっ!
今年はもう訊かない!訊くもんか!





プレゼントは、買った!
スペシャルディナーのメニューも、決まってる!
誕生日に近い連休の休日出勤は絶対にしないように、必死こいて働いてる!


よって今年からは、あいつには何も訊かずに、完璧なバースデーを演出できる!
・・・はずだっ!


あ、ちなみに、弁解しておくと、別に僕自身がサプライズとか、イベントが好きなわけではない。まったくない。
むしろそういったことが大好きなのは、あいつのほう。
友人としての付き合いは長かったのに、奴がそんなにもこういったことに執着する乙女な人間だったとは、こういう関係になるまで知らなかった。
けど、まー、だからといって、そのことで幻滅したりはしなかった。むしろ可愛い奴と、好感が持てたくらいで。


あ・・・、えっと、ま、そんなこともさて置いて、と。


そうそう、あいつのバースデーイベントには、他にもいくつか決まり事(というか、毎年同じ要望)がある。


ひとつは、スペシャルディナーの献立だ。
誕生日が休日の場合にはその日の晩、平日なら次の休みの晩に作ることになっているメインディッシュ、それは、カニクリームコロッケ。
結構手間の掛かるメニュー。
サイドメニューも作るわけだし、当然ケーキも手作りだから、僕はほぼ丸1日キッチンに立っていることになる。
なお、これも、僕は、去年までは一応確認をとっていた。


「誕生日に、なんか食べたいもんある?」


と。


でも、これも応えは毎年同じだった。


「カニクリームコロッケと、チョコケーキ!」


だ。


僕はいつも、面倒くさいなー・・・と、少しだけ思う。
そして、なんでこっちは即答?と、内心突っ込みも入れている。


もちろん、出来合い物は却下だ。(まぁ、そんなことするつもりはないど・・・)
クリームは、ベシャメルソースからちゃんと作らなくちゃいけないし、蟹はタラバ指定だ。
チョコは、産地まではこだわらないけど、ビターなのが好きだから、オペラに近いものを作っている。
料理は嫌いじゃないからいんだけど、とにかく時間の掛かるこのメニューを、奴は毎年誕生祝として食べたがる。




そして〆の決め事。
それは・・・、その・・・、よ、夜の・・・ほう・・・について、だ。
そう、奴がいつもメインで欲しいと言うのは“僕”なのだから、これも仕方ないっちゃー仕方がない。
ただ、別に誕生日にしかエッチしないわけでもないのに・・・、とは思う。
しかも、これについては、誕生日に近い連休中に有効、ということになっている。(何故、奴の誕生日には有効期間があるのかはいまだ不明)
オーソドックスなスケジュールは以下のとおりだ。
夕飯後暫く寛いだら、一緒にお風呂に入って、ベッドへ移動。
ここまでは、誕生日以外にもたまにあることなので、特段どうってことはない。
なので、これ以降が、バースデースペシャルナイト仕様になるわけなのだが。
それは・・・、


って、・・・


―――っは!!!


別に、これ以上のことを話す必要はないんだった!
ふー、危ない危ない。




あー・・・、で、そもそも僕が言いたかったのは、こんだけ僕は奴のために色々考えて行動しているのに、にも拘わらず、今年の当麻は、なんかオカシイ、ということで・・・。




例年なら、あいつは二週間前からソワソワし始める。(いや、ウキウキか?)
元々タレ目な目じりを一層下げて、ニヤつく時間が一気に増える。(若干キモい)


ところが、だ。
今年は、なんだか不機嫌、というか、寂しそう、というか、とにかく表情が暗い。
それはここんとこずぅーっと続いており、Xデーの三日目前である今日も変わらない。


いったい何が気に食わないというのだろうか。
毎年同じ質問と回答を繰り返しているだけの、あの不毛なやり取りを、今年もやりたかったのだろうか?
いやいや、まさか。
・・・でも、他に思い当たることもない。


ただ、今年はここまで訊かずにきたんだから、僕としても、このまま押し通してみたい、という思いもある。
どうだ!訊かないでも、僕ってお前のこと、ちゃんとわかってるだろ!と、誇示してみたいのだ。


けれども、この雰囲気。
どうにも居心地が悪い・・・。


どうしようかなぁ。




「おー、おかえり。風呂先もらった。・・・じゃ、俺、も寝るわ」


「・・・えっ?あ、ただいま。うん、わかった。・・・おやすみ」


今日の会話もたったこれだけ。
寝るったって、どうせほんとに寝るわけでなく、あいつはこれからが仕事。
相手が海外なことが多いためだ。


あーあ、これじゃあ、もう、訊くに訊けないじゃんか。
はぁ・・・っ、仕事疲れが、一気にどっと押し寄せる。
もう、夕飯を食べる気も失せた。


連休をがっちり休むために、ここんとこ残業続きだったし、今日は部下が客先を怒らしたもんだから緊急で一緒に謝罪に行って、そのおかげで昼も食べてないし、昨日は部長の愚痴聞きに飲みに付き合ったし、結構肉体的にも精神的にもクタクタなのに、そのうえ家に帰れば、暗〜い顔の同居人、って…。


こんなはずじゃなかったのに・・・。
あ、やばっ、なんだか泣きたくなってきたじゃないか〜っ。


「風呂入って寝よ…」


ちなみに、僕等の部屋は、基本別々だ。
だから、生活がすれ違って、顔を合わせないとなると、とことん会わない。
そう、所謂、家庭内別居状態、ってやつだ。


薄く開いたあいつの部屋のドアの隙間からは、ぼんやりとした光が漏れている。
また暗い中で、PCだけつけてるんだろう。
目に悪いからやめろって、前にも言ったのに。




こんなで、三日後にはちゃんとあいつを祝ってやれるんだろうか。






と、そんな感じに悶々としつつ、結局あのままの状態は続き、1010日はやってきてしまった。
今年は平日だから、とりあえずはプレゼントを渡すだけ。
けど、できれば定時で帰って、スペシャルじゃないにせよ、少しはましな夕飯を作りたい。
で、ちゃんとした会話をしたい。


とはいえ、なんともどうにもこうにも気が重いのは何故か。
それは、かなり結構、後悔しているから。
たとえあいつの答えがわかっていたとしても例年通りに訊くべきだったと、変な意地なんか張らないで、あいつの篭る部屋に乗り込んでってでも確認すればよかったと。
僕の背中には、後ろめたさが、がっつりずっしり乗っかっている。


でも、もうまるっと5年も付き合ってて、答えのわかっている質問をあえてする、というのって、実際問題としてどうなんだろう・・・。
あいつ自身は、ムカつかないのだろうか?
『いいかげんわかれよっ!』って。


そう、そう思ったから、訊かなかった。
なのに、何だ、この得体の知れない罪悪感・・・。


お陰で、二週間もあいつにあんな顔させておいて、これでほんとに恋人と呼べるだろうか、なんて不安まで頭を過ぎる始末だし。




そういえば、そもそも僕は、そんなにあいつに惚れていたっけか?




・・・―――!!!


いやいやいやっ!
そこ疑っちゃダメだろうっ、自分!




よしっ、今日は絶対定時で帰ろう!

でもって、簡単に作れるあいつの好物を作って、プレゼント渡して、そんでもって、今更だけど、やっぱり訊こう!




・・・で、今はもう22時・・・。
・・・で、僕は今、会社出入口の守衛さんの前を通り過ぎたところ。
うちの会社の定時は、17:30だ。




嗚呼〜〜〜・・・っ、チクショーっっ!
ちっとも、思うようにいかなかった・・・。


アポなしの来客やら、急な役員からの呼び出しやら、部長から明日が締め切りの資料作りが丸投げで回ってくるやら、部下の一人が女子社員を怒らせてフロアで大喧嘩を始めるやら、いつもならそうそう重ならない出来事が次から次へと、これでもかと襲いかかってきた。
そのために、頭の中に描いていた本日の仕事のプランは、狂いまくりだ。
普段なら、仕事なんてそんなもん、と割り切れるけれど、今日ばかりは腹の底がジリジリしまくって、20時半を過ぎた頃には、危うくブチ切れそうになった。


なんだよ、これって何かの嫌がらせ?それとも何かの罰?
僕って、そんなに悪いことをしたか?


あーっもうっっ!ダメだダメだダメだ!!
立ち止まってこんなことウジウジ考えてる場合じゃないっ!


そっから僕は、猛ダッシュした。
公共乗り物に乗っている時以外は、すべて早足か駆け足で時短を計り、あらかじめ決めておいたメニューの食材をカゴに投げ入れ速攻で購入し、エレベーターの中でも足踏みして、じれったい思いで玄関を開けた。




「ただいまっ!ごめんっ、遅くなった!」


蹴るように靴を脱ぎ、キッチンへ直行し食材を置いてスーツの上着も適当に脱ぎ捨てた。
ネクタイをYシャツのボタンとボタンの間に押し込んで、ワイシャツの腕を捲くりながら、水を出し、手を洗って、カウンターの向こうに視線をやると・・・


ソファに座ったあいつの、こちらを見ている目と、ぶつかった。





「そんな慌てんでええ」


低い声。
・・・機嫌は・・・よくない、よな・・・、やっぱり・・・。



「え・・・でも・・・」




「さっきコンビニ行って、適当に食った」




「ぇ・・・え・・・っ?」


なんだか、頭が真っ白になった。

ちょっと待て、何言ってるんだ、こいつ・・・
意味が・・・、よく・・・わかんない・・・
だって今日は・・・




「じゃ、俺、寝るわ」




何も言えずに背中を見送って、静かに奴の部屋のドアが閉まった瞬間、僕は、自分でも思いも寄らない行動をとっていた。


濡れた手もそのままに後を追い、ノックもせずに奴の部屋に駆け込んで、既にPC前の椅子に座ったあいつが、くるりと椅子ごと向いたその膝に縋った。


あまりにもショックで、本当はあの場でくず折れるか、卒倒するかと思った。
だけど、体は勝手に、真逆の動きをした。
だから思考のほうが追いつかなくて、僕はあいつのスウェットを掴んで下を向いたきり、何も言えなくて。


あいつも黙ったままで。


それからどんぐらいそうしていたか、脳みそは混乱してるのか、考えることを放棄したのかもよくわからないけど、とにかくあいつを見て、言うべきことを言わなくちゃいけないと、僕はとうとう顔を上げ、勇気で声を振り絞った。




「と、当麻・・・っ、あの・・・っ、た・・・誕生日、に、欲しい、もの・・・、何?夕飯に、食べたいもの、あ、る・・・?」


と。



それがどんなに間抜けた質問かは十分わかっている。
でも、この二週間のギクシャクの原因の全ては、僕が言わなかったこの台詞にあるのだと思っていたから、言わずにはいられなかった。


当麻の表情は読めない。
呆れているのか、困っているのか、怒っているのか、哀しんでいるのか・・・。


ああ・・・っ、もうどうしようっ、どうしたらいいんだろうっ。






「ぷ」






・・・は?


『ぷ』?



・・・え?え?


今、このシチュエーションで、『ぷ』???


『ぷ』―――っ?!?!




「あーーーーーっ!マジ、堪らんわぁ〜〜〜もぉ〜〜〜っっ」


・・・は?

何の何処が『堪らん』わけ??


「と・・・っ」



「あー・・・、あ、いや・・・悪かった。ほんま、すまんっ」


奴はそう言うと、僕の頬を両手で包んだ。


「え・・・?」


もう僕は、何が何やら、だ。


謝るのは僕のほうなのに、何で君が謝ってんだよ!


「せっかくの誕生日やのに、お前にここまでの顔させて、何やってんやろな・・・俺」


そうだよっ!ほんとに、そのとおりだよっっ!
どうして、君の誕生日なのに、僕がこんな苦しい思いをしなきゃなんないんだよーっっ!


・・・って、
んん?
ここまでの顔?
・・・って、どんな顔だ?


「あーあー、こない目ん玉にぎょうさん涙溜めよってからに・・・」




へ?
えっ?
まさか・・・っ
え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っっ!?
何っ?僕・・・、半ベソってんのぉ―――っっ!?!?


「―――っっ!」



「うぉあーっっ、待て待て待て〜っ!逃げんなっ、コラっ、伸っ」



今度は、当麻が僕を追いかけて、後ろから抱き着いてきた。



『コラっ』て何だよ、『コラっ』て〜っっ。



「すまんすまんすまんっ、ほんま、堪忍っ、すまん!伸!お前が、あんまりにもあんっまりにも可愛いいて、つい・・・っ」



「なんだよっ、それ・・・っ、意味わかん、ない・・・っ」



『あまりにも』を2回も繰り返して、『可愛い』とか、言ってんじゃねーよっっ!



「ああ、せやな、そやな、わかった、ちゃんと説明する!やから、逃げんでくれ、な?なっ?」



『説明』ぇ〜・・・?



「・・・わかった」







僕たちは、再びリビングに移動した。


ソファに並んで座り、当麻は体ごとこっちを向いて僕の両手を握り締め、真剣な面持ちで話し始めた。



「実は・・・俺の誕生日は、いつも二週間前から始まっててん」



それは毎年、僕が例の質問をしていたからだろう。


僕は頷いた。


「それに、気付いたんは・・・、付き合い始めて2年目からや。俺は最初、ふざけ半分で、わざと1年目と同じ回答をお前にした。でもそれが始まりで、俺は味を占めてもたん。んで、以降はずっと・・・。お前も知ってのとおりや、な?」



もっかい頷いた。



つか、何の『味を占めた』っていうんだ?



「そうなんよ、毎年決まっとる答えを聞いた時の、お前のあの顔を見られるとっからが、俺にとっての誕生プレゼント開始やねん・・・」



僕の・・・顔、が?

なんだって?


「こう・・・、頬を赤らめながらな、ちょっと困惑したみたいなあの表情?あれが、堪らんく好っきやねん・・・」



へっ?



「で、次に、食べもんのこと訊いてくるやろ?そん時の答えを聞いたお前の反応も、これまたもぉ〜っ堪らんねんっ!これが贈り物第二弾な!」



なんだろう、なんだか妙な違和感がジワジワとやって来るのを感じる。

というか、挫折感?敗北感?虚脱感?


目の前の男は、先ほどまでの不機嫌さは何所へやら、気持ち悪いほどにその瞳をキラキラさせながら、懸命にしゃべっている。



「でもって、そっから二週間、お前、いつも必死こいて仕事するやん。その間(かん)の、健気で若干疲れ気味でアンニュイな雰囲気が、これまたまた、めっさそそんねやわ〜っ!」



『疲れ気味の僕』が『そそる』?

だから、いつもあんなに鼻の下を伸ばしっぱなしだったと?
そういうこと・・・、なのか?


「やのに、今年は、お前、訊いてこんかったやろ?なんで俺、最初はめっさガッカリしたんよ。けどな、2・3日して、気が付いてん」



何に?

って、聞きたくないんだけど、もう・・・。


「お前が、俺にいつもの質問せえへんかったことを、もしかしたら、気に掛けて、悩んで、ちょい後悔してんちゃう?って。でもって、俺がガックリきとんのを、何とか挽回しよ、って機会を窺ってんちゃう?って」



あーあーあー!してたさっ、してたとも!

なんだよっ、気付いてたのかよっ!
だったら、なんで・・・っ


「ほしたら、そん様子がまたぁ、予想外にめっっちゃエロ可愛いく見えてん!そらもう、俺、毎日キュンキュンよっ」



『キュンキュン』・・・



「顔がデレンデレンになりそうなるんを、そらもー必死で堪えたわー。だって、せやろ?俺がニタニタしよったら、お前のあの表情見れんくなるやんな?」



あー・・・はて?

僕が付き合ってた相手は、こんな奴だったろうか・・・?
それとも僕が知らなかっただけ、とか?


「お前がっ、あの伸が!こん俺のためにそこまで思い詰めてくれてるて、これ以上の幸せあるかー?ないやろっ、ゼッタイないっ!」



あ、反語法だ。



「今日がほんまの誕生日で、お前も何かしら考えてくれとんのはわかっとったけど、でも、どうせスペシャルDayの本番は、明日の3連休からやろ?せやったら、どうせなら、そこまで引っ張ってもええんちゃう〜?もーちょい美味しい思いさせてもろてもええんちゃう〜?って、思ってん・・・」



あー・・・・・・・・・・・・・・・


呆れてものも言えない・・・。
じゃあ、何か?
僕が意地張って思い悩んでる、その顔を見てるのが楽しかったと?
そのために、あの仏頂面を演じていたと?
こいつは、僕の困った顔フェチだったと?
そう言いたいわけか?
これって、イジメじゃないか?でなきゃ、精神的DVじゃないかっ?!


「でも、さすがに、いき過ぎやったな・・・。むっちゃ反省した・・・、ほんますまんっ悪かった!あんなっ、でもなっ、弁解させてもらうと、俺、お前の泣き顔は見たないねんっ!でもって、笑ろうた顔も、ほんまにめっちゃ好きなんよ?嘘やないでっ!」



なんだろう・・・。

頭が朦朧としてきた・・・。
何故だか怒る気力すらも湧いてこない・・・。


「あ〜〜〜っっ、あかーーーんっ!もぉっ、そんな顔すんなや〜〜〜っっ!今すぐ押し倒して食うてしまいたなる〜〜〜っ」



「ぅぎょっ」



く、苦しい・・・ってっ!

そんなぎゅーぎゅー抱き締めてくんなよっ!


「お前、今の自分の姿がどんだけ俺を煽っとぉか、わかっちょるんか!」



僕の脳みそは、どうかなってしまったんだろうか。

こいつのこの滅茶苦茶な話、本来なら、通常モードの僕ならば、怒り狂って、当り散らしたいるところだろう。
だけど・・・なのに・・・。
嗚呼・・・、僕は、よほど、相当〜に、疲れているんだ。
だって、なんか・・・、こんなに想われて僕って幸せもん?とか、思っちゃって、ふつふつと嬉しさなんか感じちゃってる自分がいたりして・・・。
それとも、これまで自分はどちらかといえばSだと思ってたけど、もしかしてMだったのか?
あー・・・そうだよ、疲れ過ぎておかしくなっちゃったんだよ。
うん、そうだ、そうなんだ。
もう、ほんとに、クっタクタで・・・、ヨっレヨレで・・・、ヘっロヘロで・・・、


だから・・・





「・・・いいよ」





「はぃ?」



「食べても・・・いいよ」



こんな台詞が出てくるに違いない。



「へっ?」



「・・・とにかく、君が、怒って哀しんでるんじゃなくて、よかった・・・」



「伸っ!!!」



「あ〜・・・でも・・・、その前に・・・、少し・・・寝かせて・・・く・・・・・・」



「えええええええええええっっ?!おいっ、おいっ伸っ、ここで、え〜〜〜〜〜っ!うっそーーーんっ!まさかの・・・、お預けか〜いっっ」





だってほら、君が内心ニヤついてた二週間、僕はすっごい辛かったんだ。

それに、本番は、明日からなんだから、もちょっとくらい先延ばししても、いいだろ?

僕のこの、憔悴しきって、でも、少しニヤケた寝顔見て、楽しんでくれ・・・。







END

(注:本作中の設定は、リアルに2013年というわけではありません。)



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