○○24時!

 

  トルーパー

  それは、人間社会の最前線で戦う人々。
  そんな彼らには、昼も夜も関係ない。

  妖邪共は、常にこの世界を混乱と恐怖で支配しようと、人の闇に潜み、
  その隙を窺っている。

  だから彼らは、ここに集っている。

  この世の正義は、トルーパーが守っているのだ!


  俺は、『警察24時!』とかの番組を見るのが好きだ。
  警察官や刑事たちの戦いを、俺たちになぞらえて見たりすると、勇気が湧く。


  だが、俺たちはまだ10代で、いつも気を張っているのも疲れる。

  実際、俺の体力は、悔しいけれども、他の奴等に比べてはるかに劣ってるし。
  そんな自分が不甲斐なくて、たまにキレたりもしてしまう。
  そうすると、今度は自己嫌悪に陥る・・・の繰り返しで。

  そんな俺にとって、唯一の癒しは・・・仲間の一人である、ある人物だ。
  名前は、毛利伸。

  あいつの優しい笑顔が好きだ。
  白い肌も、柔らかな髪も、甘い声も。
  料理上手なところも好きだ。

  だから、キスしたいし、抱きしめたい。
  彼を独占したい。

  そう意識しだしたのは、いつ頃からだったか。

  そして、そんな風に彼のことを思ってるのは、俺だけじゃないんじゃないか、
  と疑い始めたのは・・・。




  「あれっ?りょお??どうしたの、おっかない顔しちゃって」
  そう言いながら俺の眉間を突いてくる指先も、毎日の水仕事を感じさせない
  キレイさだ。

  そんなことにも、実は最近漸く気付いた俺だ。
  他のヤツは?どうなんだろう??


  伸にとって、俺が“特別”であることは間違いない。
  俺はこれまでそれを当たり前のこととして受け取ってきたが、けどその
  “特別”って、どういう意味でなんだろう。
  確かめたいが、今はまだその勇気がない。


  少なくとも、こんなに優しく、温かく接してくれんのは、俺に対してだけだ。
  伸は、他のヤツには容赦ない。
  思い起こせば伸に殴られたことがないのって、俺だけじゃないだろうか。
  さすがに女性や子供には手を上げないが・・・
  当麻は毎朝、グーで、おそらく一度に数回。
  秀は、だいたい週5、お玉かフライ返しの柄の部分かグーで、毎回最低1発。
  征士ですら、一度平手打ちを食らってるのを見たことがある。(原因は知らないけど)


  で、どうして、俺がこんなことをグルグルと考え出したかというと、話はひと月ほど
  前のことに遡る。


  当麻と伸が、誰もいないリビングで、プロレスモドキをやっていたのを見たことが
  あった。

  その時俺は、プロレス(もしくは柔道)であることを信じて、疑いもしていなかった。


  ところがだ!

  人は、着々と大人の会談・・・じゃなくて、階段を、本人の希望如何は関係なく、
  登らされるもので・・・。

  ちなみに俺のソレは、秀によって齎された。

  あれは、俺と秀が留守番役で、柳生邸に残っていたときのことだった。

  「おいっ、遼っ・・・!おいっ・・・ちょっちょっ」
  ベランダに出て、何するわけでもなく、ボーっとしていた俺に、秀が何やら
  意味ありげに笑いかけながら、声を掛け手招きしてきた。

  俺はまたなんか面白いイタズラでも思いついたのかと、そそくさと後について
  いったのだが、行くとそこはリビングだった。

  天気もいいのに、カーテンが締め切ってある。

  ???
  映画鑑賞でもやんのか?

  そう思っていたら、
  「ひっひっひっひっ」
  と、昔見たアニメ映画の魔女みたいに変な笑い声を発して、秀が肩を組んできた。
  「こないだ実家帰った時によ、ダチから、いーもん借りてきたんだ!一人じゃ
  もったいねーからさ、遼も一緒にみようぜっ」

  そしてまた、さっきと同じように笑った。
  今この家には二人しかしないのに、ヒソヒソ声で話す意味もわからない。
  あんまり正義の味方っぽくなくて、俺はちょっと不信に思ったが、『いーもん』と
  言われれば、そりゃ誰だって断るはずがない。


  かくして、上映会は始まった。

  俺は、天地がひっくり返るほど、ビッッッックリ、した。
  それは、生まれて初めての、いわゆる、アダル○ビデオだった!

  けれど秀は、既にその道は早々に通過していたらしく、男女が絡みまくって、女が
  アンアン言ってるソレを観ても、

  「うーん・・・なんだかなぁ〜おい。これ、イマイチじゃねーかよ〜。アイツ俺が
  デカパイ好きなの知ってるくせに、なんでコレなんだよ・・・ちーっ」

  なんて言って、途中からは惰性で観てるだけみたいだったけど、俺はもう、
  この初体験に、なんというか、その・・・、ギンギンのビンビンになってしまった。

  しかも、あろうことか、女が貧乳のショートカットだったせいもあってか、
  目の前の映像に、こないだ見かけた伸と当麻のプロレスごっこが重なり、そのうえ、
  当麻を自分に置き換えてしまっていたのだ!


  それで、俺はやっと気がついた。


  俺は・・・
  伸と・・・

  こうなりたい!


  そうか!!
  俺、“そういう意味で”、伸が好きだったんだ!

  と。
  と、同時に、あの時のプロレスが、本当は、プロレスでも柔道でもなかったんじゃ
  ないかと疑い始めた。



  そうして、俺の、24時間体勢の監視が始まった。


  先ず、秀はその範囲から除外した。
  “デカパイ好き”と、公言するくらいなのだから、俺のライバルにはなり得ない。
  ナスティは、伸を弟だと思っていると聞いたことがあるし、純は、まあ今のところは
  問題外だろう。

  残るは、征士と当麻だ。
  これはどちらも要注意と言える。
  当麻は何しろ、俺が知らないうちに伸とプロレスがやれるほどに親密な関係になって
  いたのだから、危険極まりない。

  それに征士も、侮れない。
  伸は、俺の次に征士に優しい。
  時々真剣な顔でなにやら相談していたり、二人で楽しげに散歩していたり、思い出して
  みると疑わしい場面が次々と蘇ってくる。

  だから、用心に越したことはない。


  それからは、なんやかやと理由をつけては、征士や当麻が、伸と二人きりにならない
  よう、牽制した。

  その甲斐あってか、近頃伸は、俺にベッタリだ。
  俺が伸にベッタリとも言えるが、これはまあ、以前から変わらないから問題もないし、
  誰も俺の心境の変化に気付くこともないだろう。

  伸だって、元々俺には甘甘だったんだから、文句のあろうはずもない。

  だが、そうしてみて、またまた気がついたことがあった。

  当麻だ。
  容疑者はこいつに絞られたといっていい。


  「おい、伸」
  「んぁ?なーにー?」

  当麻はたまに伸を呼ぶ。
  柳生博士の残した蔵書を整理したり調べたりするのに、伸を誘うのだ。
  俺からしてみれば、そんなこと征士に頼めばいいじゃないか、と思うのに、
  いつも決まって相手は伸だ。

  しかも、俺の聞き込み()によると、この誘いを伸が断ったことはないらしい。
  どうやら、これまでは知らなかったが、こうして二人きりの時間は以前から時々
  あったのだ。

  でも、今の俺は、以前の俺とは違う!
  胡散臭い!
  臭う!臭うぞっ!
  これは徹底的にマークしなくては!

  当然、そんな危険極まりない時間なんて作らせるわけがない。
  「当麻!よかったら、俺も手伝うぜ!」
  ちょうど伸と、親父の写真集を見ていたところだった。
  そんな妨害電波は、おくびにも出さず、言ってのけるだけの演技力は、
  俺にだってあるぜ!

  ふっ・・・俺も悪いやつだな。


  「ええ〜?・・・あ、あぁーーー、じゃあ、よろしく・・・」

  んー、やっぱり明らかに落胆している。

  こりゃますます当麻のやつは怪しい。

  だが、どうしても理解できないのは、どうして当麻が、伸のことを気に入って
  いるかだ。

  だって、あの二人、傍からはどう見たって仲がいいようには見えない。
  だって、伸は、殊更当麻には厳しいし、それに、当麻だって、毎朝暴力を受けてる
  相手を好きになるなんてこと、あるだろうか???


  ん?毎朝?
  んんん???

  いやっ、待てよ!
  そうか!!
  ・・・しまったーーーっ!

  朝だ!
  朝があったじゃないか!

  朝、伸が当麻を起こしに行く時!
  それは、当麻と同室の征士が起きた後だ。
  完全密室なうえに、二人きり
  じゃないかーーーーーーーーーっっ!!!

  俺としたことが、あまりにも日常化していて、うっかりしてたぜ・・・。
  よーし!
  明日からは、俺が当麻を起こしに行くことにしよう!

  「遼、随分張り切ってるねー。そんなに頑張らなくていいからね。所詮、
  コイツの趣味なんだから」


  のんびりとした伸の声に、俺は、彼が好きだと言ってくれている、爽やかな
  笑顔で応えた。


  翌朝から、俺は自分自身に有言実行した。

  俺の突然の提案に対して伸は、

  「えー!遼が?!ほんとに?・・・あ、でも・・・うーん・・・それってすっごく有難い
  んだけど・・・どうかなー・・・」

  と、やたら驚いたうえに、歯切れの悪い返答を寄越した。
  俺はちょっとムっとして、

  「なんだ?なんか、俺じゃ都合悪いことでも、あるのか?」
  食い下がった。
  どうしたんだよ、伸!
  まさか、どうしても自分で起こしに行きたいのか??
  そんなに、当麻と二人きりになりたいのか??
  心の中で叫ぶ俺。

  すると、俺の不安そうな表情を見て取って、
  「あー、いや・・・、行ってくれるのは、ほんと有難いんだけど・・・。・・・わかった!
  遼がそこまで言ってくれるなら、お願いするよ!そのかわり、とにかく、
  気をつけて!油断なく、迅速に!それが、何より大事だからね!」

  「お、おうっ!わかった、まかしてくれ!」
  「がんばってねっ」

  そう言って、俺の手をしっかりと握り、送り出してくれた。

  『気をつけてね』?
  『油断なく、迅速に』??

  2階への階段を上がりつつ、今の言葉を反芻する。
  そこまでの用心が必要な理由は、その時の俺にはわからなかった。


  が・・・
  “理由”は、すぐにわかった。


  コンコンコン


  「とぉ〜まぁ〜・・・??」

  明るい部屋にそっと入る。
  こんな太陽が燦々と差し込む部屋で、よく寝てられるよな・・・。
  おそらく、征士が起きてすぐにカーテンを開けるんだろう。
  先ずはそうやって起床を促しているんだろうけど、全く効果なしだな。
  この爆睡っぷり、ライバルながら、あっぱれだぜ。

  そんな風に、うっかり伸からの助言を忘れ、この目の前で寝こけるヤツに
  見入ってしまった。


  それから、徐に当麻に手を伸ばし、揺り起こそうとした、その、瞬間!


  ぐいっ・・・!
  ぐるりん。

  ほえ???

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・

  何が起きたんだ・・・???
  いや、当麻はまだ起きてない。
  だって、目、つぶってるし。
  っていうか、なんで、こんな間近にこいつの顔が見えるんだ?
  焦点があわないじゃないか。


  にゅる・・・っ

  ん?んんん???
  にゅ・・・る・・・??

  !!!!!!!!!!!!!!!

  こ・・・っ、これって・・・、これって、まさか、まさかまさかまさかーーー!!!

  なななななんてことだぁーーーーーーーーーっっ

  俺の、俺の大事な、ファ、ファーストキ・・・ス・・・がぁっっっ!

  「んんっ!んんんっ!(とおま!)んーんーっっ!!(とーまーっっ!!)


  俺は、あらん限りの力で当麻の背中を殴った。

  「いって・・・!いてててっ。わかった、わかったから、伸、やめろって」


  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・な、にぃ??
  “伸”
  だってぇ〜??

  「あぁあ〜、なんだよー、今日は久々に油断してくれたと思った、の・・・に・・・」

  当麻が、漸く起きた。
  じゃなくて、当麻は既に起きていた。
  いつからかわかんないけど。


  その後、どれほどの時間睨み合っていたか、さっぱり思い出せない。

  まさに、二人しかいないのに、三つ巴、みたいな状況になった。

  いや、違うな、どちらかといえば、ガマの油だ。
  鏡に映った自分の姿を見て、ガマ蛙が脂汗を流す、あの状況のほうが、
  今の俺たちにより近いと言える。


  「りょ・・・遼・・・!おまっ、お前っ、な、なんで、いんだよっっ!」
  当麻が腕で口を拭い、ベッドの上で後ずさりながら言った。

  前から思っていたが、とことん、失礼なヤツだな。
  自分から、人のファーストキスを奪っておいて。
  しかも!
  その相手を、伸と間違えるなんて、無礼にもほどがある!!
  征士なら、こう言っただろう。

  だがしかしっ、それよりも何よりも!
  『久々に油断して』
  って、どいういうことだーーー!
  じゃあ、このことは、初めてじゃないって、そういうことか?!
  俺にとっては、そっちのほうが、重要だった。

  「お前こそ、いっつも、伸に何してんだ!このやろーっっ」
  俺は当麻に掴みかかった。

  「ああん?!なんだと、このヤロー、そんなのお前に関係ないだろうが!」
  そしてどうやら、いつもは冷静な智将も、この時ばかりは頭の中が
  とっちらかっていたようで。

  「ふざけんなよっ!伸だと思ったから襲ったのに、おえーーーっ!なんで、
  今朝に限って遼なんだよっっ」


  と、きたもんだ。
  どこまでも失礼なヤツだ!
  『伸だと思ったから』ってとこが、余計に気に食わないし!

  「なんだって?!“伸だから”だとぉ?!じゃあ、伸にはいっつも、
  こんなことしてんのかっっ!っていうか、伸に、いっつもこんなことしたいと
  思ってんのか?!そうなのか?!ええ?」

  俺はとうとうブチキレた。

  「うるせー!お前に言う筋合いはない!じゃあ、言わせてもらうがな、
  お前、最近、伸に纏わり着き過ぎなんだよっ、ベタベタベタベタ邪魔だ!
  せっかくのチャンスをいつもいつも台無しにしやがって!このっ、お邪魔虫っっ」

  さすがの当麻も支離滅裂になってきた。

  「お邪魔虫だぁ?!お前、若いくせに使う言葉が古臭いんだよ!伸は、
  “俺が”好きなんだ!好きなヤツが好きなヤツと一緒にいて、何が悪いんだよ!
  それにっ、チャンスって、何だよ!チャンスって!」

  「お子ちゃまには、まだ早いんだよ〜っ!それになー、伸が本当に好きなのは、
  お前じゃなくて、“俺”だ!残念でしたぁ〜」

  「なんだとーーーっウソ吐けこのやろー!」
  「ウソじゃねーよっ!やるか、おらーーーっ!」



  
「やあ、おはよう」


  室内温度が、急激に下がった。


  「「・・・し・・・」」


  「二人とも、朝から元気だねぇ」


  「「・・・・・・・・・」」


  顔、笑ってるのに、眼が、怖っっ・・・!
  こんな伸、俺、知らない・・・。
  でも、嫌いじゃないな。


  「声はすれども姿なし。何を、やってるのかと、思えば・・・」


  ゴクリっ・・・


  「君たち、バカ?」

  「「は?」」

  「この家、どこにも、防音とか、してないんだよ。わかってる?」


  「「・・・あ・・・」」


  「君たち、バカだろ?」


  「「・・・はい・・・」」


  
顔を上げてドアの向こうを見ると、心底呆れ顔の征士と、笑いをかみ
  殺そうと必死の秀がいた。


  その後、数ヶ月、伸の怒りは治まらなかった。
  いや、むしろ、数ヶ月で治まってくれたのが軌跡なのかも・・・。

  マジで針のむしろだった。


  だが、俺の気持ちに変わりはない!
  今でも伸のことが大好きだし、もちろん当麻の奴にはゼッタイ負けたくない!


  そんなわけで、当麻(犯人)と俺(警察)の攻防戦は、未だ収束していない。


  
俺たちの戦いは、まだまだ続く。
  しかし、正義は、最後に勝つ!
  と、俺は信じている。


  それが、俺たち、トルーパーだから!



  
END

   と、いうわけで、0901のキリ番を踏まれました、珪砂様からのリクエスト、
   “「火さす?」風味で、当×伸←遼でお願いします!遼は「火さす?」より、微妙に恋愛感情が
   入っていると嬉しいです。そして、当麻はどうする…!?…な感じで!!”

   で、でございました★
   すみません、すみません、すみませんっっ!!
   思いっきり、『火さす?』の続き物なうえ、「で、当麻、どうするんだよ!」なところで終わって
   しまいました・・・・・・。しかも、遼が再びイタイ子に。。。。。
   ていうか、ある意味、終わらなかったですし。
   そういうわけで、ある日また続きを書くかもしれません!   
   こんなで大変恐縮ですが、珪砂様のみお持ち帰り可でございます♪
   生まれて初めての貴重なキリリク、有難うございました〜〜〜〜〜っ(^0^)/
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