もてきんぐ 僕は今、モテ期の真っ只中にいる。
一度に、同時に、二人から告られることなんて、そうそうないんじゃなかろうか。
そういう意味では、大変貴重な体験をさせてもらっている、とも言えるのだが・・・。
だが・・・非常に残念なことに、ちっとも嬉しくない。
それは何故か。
答えは明確だ。
その二人、というのが、・・・どちらも
“男”
だから。
なんだそれーっ
こんなことってあるか?普通ないだろう。
僕は何か悪いことでもした?
いや・・・、もしかしたらば、そういう世界では往々にしてあることなのかもしれないけれど、ノーマルとして生きてきた僕にとっては、こんなのは思いもよらぬ出来事で、まさに青天の霹靂だ。ビックリしすぎて、リアクションのとりようもない。
ところが困ったことに・・・。
だからといって、別に、二人を嫌っているわけではない。
むしろあえて可愛がってきたと言っていい。
だからこそ、恩を仇で返されたような、そんな気分になるのも仕方ないと思う。
「あー・・・確認なんだけど・・・、なんで、“男”の僕なのかな?」
「そりゃお前」「それはだって」
「あーあーあーっ、二人一度にしゃべるなっ!・・・ていうか、なんで一緒に来たわけ?」
「そりゃお前」「それはだって」
「だからっ、同時にしゃべるなって!君達は双子かっ!」
「「そんなわけないだろうっ!」」
・・・見事にハモってるし・・・
「わかってるよ・・・。言ってみただけだろ・・・。で?何故同時に?」
「「フェアに勝負しようということになった」」
だ、そうだ。
どうやら彼等は、僕をお母さんと勘違いしている。
確かに、僕は料理は上手いし、家事一般も嫌いじゃない、そのうえ不本意ながら女顔だとよく言われる。
でもって、尚且つ二人とも母親運が薄いというか・・・、片方は幼い頃に亡くしており、もう一方は極端な放任主義の下で育ったために、そもそも母というものをよくわかっていないのだ。
で、そんな二人を、ついつい僕がかまってしまったもんだから、こんなことになったに違いない。
そうか、理由は訊くまでもなかった、ってことか・・・。
であれば、彼等に誤解を与えるような行動をとった僕も悪かったといえば、その通り、なの、だが・・・。
いやそれにしても、まさかこんなことになろうとは、誰が想像できようか・・・。
まいったなぁ、もぉ・・・
「ちなみに、君達のこれは、冷静に考えての行動?」
「当然だろう!」「もちろんだ!」
「そうかぁ・・・」
冗談じゃない!キモいんだよバーカ!
嗚呼・・・
そうとは言えない自分が情けない。というか、悲しい。
あー・・・で、僕は当面どうしたらいいんだ?
なんて答えたら、二人を傷つけずに、且つ平和裏に解決できるんだ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――っは!
だめだ!
衝撃が大きすぎて、考えがちっとも纏まらない〜っ。
もしかして、僕がこうなることも計算づくとか?
えーとえーとえーっと・・・
「あー・・・うー・・・えーとー・・・、あのっ、そう・・・そうっ!答えは今じゃなくちゃダメ?か、な・・・?」
「え?」「は?」
「時間、を、さ・・・そう!時間を、くれないか!・・・な?」
いかにも苦し紛れなのがありあり。
僕の背には、変な汗がだらだら。
それは100%あり得ない!一昨日来やがれアンポンタン!
ってなくらい、言ったほうがよかったか?
二人はやや間を置いて、顔を見合わせ、頷いた。
「「わかった」」
こんなに意気投合した二人を、僕は見た事がない。
でもいいや、とにかくこれで、当面は切り抜けられる!
「ありがと!じゃあ・・・、5年!」
「「ご・・・・・・・・・・・・はい?」」
「5年経って、それでも僕に対する気持ちが変わってなくて、尚且つ、人間として惚れるに値する男に成長していたら、考える。あ、それと、その時に僕がフリーだったらね」
なんて高飛車で、傲慢で、ヤな奴な僕!
でも、さすがにここまで言ったら普通は諦めるし、5年もあればそのうち目も覚めるだろう。
―――と、目論んだ僕は甘かった。
果たして5年後、彼等は再び僕の前に並び立った。
「・・・うっそ・・・っ」
「「ウソじゃない」」
「何言ってんだよ」「お前が言ったんだぞ?」
「「男を上げて5年後に出直して来い、って」」
相変わらず息ピッタリだね。もー、二人が付き合っちゃえば?
なんて言ったら、どうなるかな・・・。
ガタブルっ
やめておこう・・・。
ええはい、言いましたとも。
確かに言った。それに近いことを。
そして半ば忘れかけていた。
つーか、忘れたかったし、忘れて欲しかった。
だって5年だぞ?
5年じゃ短かったってことか?
いや・・・そうじゃない。
彼等は、二人とも、本気だった、そういうことなんだよね・・・。
あーーーーーーっ、拙い!
非常に拙い。
これじゃ僕は、二人の気持ちを弄んだ、正真正銘の、モノホンのイヤな奴じゃないか。
この5年、僕はちゃんと考えるどころか、なるべく考えないように生きてきてしまった。
5年も経てば・・・、という思いがあったからとはいえ、それにしても酷い奴であることにかわりない。
それに、今になって「そもそも僕、ノーマルだから無理!」なんて言おうもんなら輪をかけてクソ野郎だ。
目の前にいる二人は、僕の贔屓目を差し引いても、見た目も相当いい男で。
また、驚くべきことに、社会人としても、若いながらにそれぞれの分野で確固たる地位も築きつつある。
彼等のその並々ならぬ努力を僕は間近で見てきたのに・・・。
一方僕はといえば、偉そうなことを言って勝手な条件を突きつけておきながら、のら〜りく〜らりの、のほほ〜んと、ぶなーんに、暮らしてきた。
彼等は立派だ。
僕は卑怯だ。
二人に見合わないのは僕のほうだよ・・・。
「ご」
「『ごめん』とか言うなよ」
「えっ?」
「俺たちに自分は勿体無い、なんて台詞、聞きたくないからな」
「−−−っ!」
「「図星か?」」
「うぐっ・・・」
図星だ。
なんなんだこいつら〜っ!
そんなの・・・っ、そんなの・・・頷く以外にないじゃないか、チクショ〜・・・。
「「やっぱりな・・・」」
だって、他に何て言えばいいんだよ・・・っ。
悪いのは明らかに僕のほうなのに、つい恨みがましい目で二人を見てしまう。
彼等は、一瞬だけ視線を交わし、同時に溜息を吐いた。
「お前の目に、俺たちはどう映っている?」
「ど、どう・・・、って・・・」
「5年前と同じか?」
違う。
「人間的に成長したと思うか?」
「少しは大人になったと思うか?」
したと思う。
それも随分と。
「でも、僕は・・・っ」
「俺たちはな、お前がいたから、ここまでこれたんだ」
「お前に見合う男になるためにな」
「『見合う』とかって・・・そんな・・・っ」
それはもんのすごっく!、買いかぶりすぎだっちゅーの〜っ。
君たちが頑張ってきたその間、僕は努力を怠って置いてき堀、とっくのとうに抜かされてるって・・・。
「ふっ・・・、お前のことだから、また自分を卑下するようなことを考えてるんだろう」
「・・・うっ」
もぉっ、二人して苦笑してんなよっ。
「言っただろ?」
「今日(こんにち)の俺たちがあるのは」
「「お前のお陰だって」」
「お前の日々の叱咤激励と」
「笑顔があったから」
「「俺たちは頑張れたんだって」」
ずるいよ・・・二人とも・・・。
なんだかすっごい大人になっちゃってさ。
・・・に、しても、これってすごいことなんじゃないか?
ここまで惚れられる人って、世の中どれくらいいるもの?
ということは、男冥利には尽きないけれど、人間冥利には尽きるかも・・・って?
まぁそうだよな、彼等の買いかぶりだろうがなんだろうが、二人は真面目に真剣に本気なんだし・・・。
あんな偉そうなこと言っといて・・・、僕も答え、出さなくちゃいけないんだよな。
今更だけど、ちゃんと考えて、きちんと答えを出さなきゃ・・・いけないよな・・・。
―――よしっ!
「「だから半年だ」」
「は・・・・・・・・・・・・はいぃ?」
「俺たちは5年だったけど」
「お前はその間、このことを考えないようにしていただろう」
「うぅっ」
全てお見通しだ!ってわけか・・・っ。
「「だからお前には半年だ」」
「俺か、こいつか」
どひーーーっっマジで?!?!
半年?!?!
・・・って、短いの?長いの?
うがああああああっ、よくわかんねーっっ
「それともうひとつ条件があるんだ」
「じょ、けん・・・ひと、つ?」
「お前、今、フリーだったよな?」
「今どころか、これまでだって、3ヶ月以上続いた相手いなかったもんな?」
「おいっ」
「あ、悪い・・・っ」
「ぁうぅっ・・・、いいよ、別に・・・」
だって、事実だからね。
くぅ〜っ悔しいけど・・・っ。
「「というわけで、3ヶ月交代な?」」
「とっ、なっ!3ヶ月交代???」
『というわけで』???
なんじゃそりゃっ???
「「3ヶ月交代で、俺たちと付き合ってみてくれ」」
な、な、なんですとーーーーーーー?!?!?!
「このまま時間だけ与えても、たぶんお前は、決められない」
「俺たちに与えた5年間がそうだったように、な」
「・・・ぅぐぅっ」
それは・・・っ、たぶん、おっしゃるとおり・・・かも、しれない・・・けど・・・。
「だから、だ」
「そのほうがお前も選びやすいかと思ってさ」
「え、選ぶ、って・・・」
そこに拒否権はないのか?
というより、そういう可能性については一切考えていないのか?
二人は、恰好良いし、モテる。
いろんなお誘いは引きもきらずの、引く手あまた状態じゃないか。
僕だって何度も紹介を依頼された。
僕に執着なんてしなければ、気に入った女の子とも付き合いたい放題だ。
なのに、それなのに、それでも、そんなに、それほどに、僕がいい・・・って言うんだもんな・・・。
ありがたいような、ありがたくないような・・・めっちゃ微妙〜・・・。
でも、男と付き合うなんて、想像もできない。
つか・・・、したくない・・・?
「そんな・・・でも・・・っ」
「お前もよく言ってただろう?」
「何事も経験だ、って」
「あぅっ・・・あ、ああ・・・、・・・言ってた・・・ねぇ・・・」
僕って、墓穴堀なのか?
なんか、良いように言いくるめられているような・・・。
気のせい?
「「じゃっ、そういうことで!明日からよろしくっ」」
「やややややっ、ちょっ、『じゃっ』って、『明日から』って、ちょちょちょちょっと!」
「なんだ?」「どうした?」
「や、だからっ、そのっ」
「・・・ああ!」「そうか順番か!」
「はへ?順番?」
まー、確かにそれもあるけど、って、いやいやっそうじゃなくてっ!
「それなら、前半が俺で」
「後半が俺ってことになってる」
「あ、そうなんだ・・・、って、いやっ、だからっ」
「話し合いでは埒があかなかったんでな」
「勝負して決めたんだ」
「しょーぶ?」
「ふっ、安心しろ。いたって平和的で」
「且つ、公平な方法で、だ」
「はぁ・・・」
訊きたいのはそこじゃないんだけど・・・。
「「ジャンケン5番勝負!」」
「じゃ?」
えええっ?!?!
いいのか?こんな大事なことを、そんな方法で決めちゃっていいのかっ?!
・・・って、だからそこじゃなーーーい!
「で、3勝した俺が前半をいただいた」
「そ、そう・・・なんだ・・・」
二人の表情を比べると、どうやら、前半のほうが有利と考えているようだ。
そういうもんなんだろうか・・・。
いやいやいやっ、だから、そうじゃなくてっ!
「あのさっ、でもさっ、それでも、そこまでしても、もし、決めきらなかったら?」
あれ?これじゃ僕、3ヶ月交代を認めたみたいじゃないか!
違う違う違うっ!
「いやっ、それよりも、僕に選択権はないわけ?」
「「選択権?」」
「選択権は、ずっとお前にあるだろう?」
「まー、二者択一だけどな」
「そうそうそうっ、そこだよ、そこ!おかしいいだろう?」
二者択一じゃなくて、拒否権!拒否権は?
は―――っ!そうだっ!
そうだよ僕っ、そもそも『選択権』じゃなくて、拒否権だろうがーーーっっ!
「「いいやちっとも」」
「はぁあああっ?」
「だって5年もあったんだぞ?」
「その5年の間、お前は俺たちに、一度もNOを突きつけなかった」
「そっそっそりゃ・・・っ、そう、だけ、ど・・・っ」
「100%ない、一昨日来やがれスットコドッコイ!とも言わなかった。だろ?」
「言わな・・・かった・・・」
思ってたけど・・・。
しかも、スットコドッコイじゃなくて、アンポンタンて。
でも、だから、元から可能性はあったはずだって?
「断ろうと思えば、いつでもできたはずだ」
「それをしなかったということは、だ、自覚はないかもしれないが、お前もこっちの人間てことだ」
こっち?
Whatコッチ?
あっちじゃなくて?そっちでもなく?
ぅあああああああっっ、いかーーーんっ
なんだかよくわからなくなってきたーーーっ
「だから安心しろ!な?」
安心て、なんだーーーっ!
『なっ?』って何だーーーっ『なっ?』って!
爽やかに言うなーーーっ!
「そうだ、もうひとつ、言っておこう」
「なっ、なに?」
これ以上僕を混乱させないでくれ〜っ!
ただでさえ、この流されそう、いやほぼ流されている状況にテンパりまくってるんだから!
「俺たちの間の協定だ」
なんだよぉ〜、協定って〜・・・・・・・・・
話をややこしくすんなよ〜もぉ〜。
「ひとつ、ライバルのネガティブキャンペーンはしない」
「ひとつ、お前が嫌がることをして泣かせたら、基礎点から1Pずつ引いていく」
「なお、基礎点は、10点満点からの減点方式とし、本人、もしくは判定人からの申告に基づき審議され、決定される」
「期間中に0点に達した場合、挑戦者は、速やかに辞退を申し出ることとする」
「ひとつ、お前が決めた結果には、異議を唱えない」
「ひとつ、勝者はその地位に甘んじることなく、以後も常にお前の幸せを考えること」
「ひとつ、また、もし、後日協定違反が発覚した場合は、再度宣戦布告できるものとする」
「「以上だ」」
「ああ、そうそう、補足事項として、『判定人』は、お前自身の他にも、お前が相談した相手等も含む、としておいた」
「どうだ?わかりやすくて親切だろ!」
「お前のほうから、何か付け加えておいて欲しいことはないか?」
・・・・・・・・・・・・そんなこと、今急に言われて、思いつくはずないじゃないだろうが。
協定項目がいくつあったのかさえ、もう覚えてないよ・・・。
今の僕の頭の中には『わかりやすくて親切』という言葉だけしか残ってないね・・・。
「も・・・好きにして・・・」
これほどに想われる僕に、それほどの価値があるのかどうかは別として、有難いことであるのは、きっと間違いない。
それに人間、そうそうこんな体験できるもんじゃない。
それなのに泣きたいのは、混乱してるからか、疲れたからか。
それとも、まさか、まさかまさかの、・・・嬉しいから、とか???
人生においての貴重な2度目のモテ期だし、って?
しかも同じ面子からだし・・・。
嗚呼・・・でもなんか、彼等を見てると、生き生きしてて、眩しくて・・・、ドキドキする・・・。
僕はおかしくなってしまったんだろうか?
それとも、もしや、もしやもしやの、・・・そもそも『自覚なしのコッチ系』だった、とか???
まままままマジでーーーーーーー?!!?
ひーーーーーーーーーーっっ!!!
「そうか。じゃ、とりあえず明日、お前んちに、俺の荷物が届くから、受け取りを頼む」
「ああ、そう・・・わか」
った・・・って・・・、
―――――――――――――――ん?
―――――――――――――――え?
はいいいいいいいいいいっっっ?!?!
そうして半年後、僕はどんな答えを出しているだろう。
END
目次にモドル
リビングにモドル