そのつづき


  

  「・・・あっ、おい・・・!ちょっ・・・、待てよ」

  深夜の柳生邸である。


  「あー?何?」

  引き止めたのは、羽柴当麻。
  振り返ったのは、毛利伸。

  「・・・えー、あ、いや・・・その、なんか、言うことないか?」
  「言うことぉ??何、それ」
  「いや、だから、そのぉ・・・」
  「・・・」

  伸の眉間にきゅるりとコイルが巻かれた。

  機嫌は悪くない。・・・ように見える。
  だって、今回もちゃんと素面だし、了解もとった。
  と、すると、別に嫌味とか、嫌がらせとかではなく、本当に、何もコメントがない
  ということなのだろうか・・・。

  当麻は悩んだ。

  伸は、事が終わると、ちゃちゃっと後始末をして、すぐに出て行ってしまう。
  それはまあ、いつものことだったが・・・。

  “湖どぼん事件”後、当麻は本格的に伸にアプローチを始め、渋る伸をどうにか
  なだめすかして、再度の機会を得た。

  それ以降は、長い月日を掛けた当麻の必死の努力と鍛錬()の成果もあってか、
  伸も行為に慣れてきたようだし、気持ちの面でも、直接確かめたことはないけれど、
  満更でもない、はず・・・と、思えるようになってきた。
  そんな頃。

  のに・・・!

  何故か、やっぱり、終わってしまえば、“ハイ、サヨーナラ”状態で。

  今日もそんな伸だったので、咄嗟に引き止めた当麻だったが。
  IQ250
の頭脳をもってしても、その先をどう続けたらよいか思い浮かばない。

  『俺のこと好きか?』
  なんて聞くのも野暮な気がするし、
  『俺ってどうだ?』
  なんていうのもSE×に自信がないの丸出しな感じがして恥ずかしいし、
  『どうして終わったらすぐ出てっちゃうんだよ』
  なんて、子供が駄々こねてるみたいだし・・・。

  そんなこんなを脳内シミュレーションしていたら、
伸も伸なりに考えていた
  のだろう。

  「・・・じゃあー、ん〜そうだなー・・・」
  何かを発してくれそうな雰囲気になった。


  −−−が、彼が考えあぐねた結果に出した言葉は、


  「満足した?」

  だった。



  「へ??ま・・・ま・・・まんぞく、て、おい、なんやねん、それ・・・」

  「えー、だって、なんか言って欲しかったんだろ?」
  「いや、そうは言うても、その・・・『満足した?』は、ないんやないかと・・・」
  「だって、やりたいことやったんだから、満足しただろ?」
  「そらま、確かにすっきり・・・って、いやいや、そうやなくって、なんちゅうか、
  もっと、こう・・・」

  「当麻・・・」
  すると、伸が大きく溜息をついた。

  「なっ、なんっ??」
  「あのさ・・・君、もしかして・・・勘違いしてない?」
  「ん・・・?勘違い?・・・して、へんと思うけど・・・」

  (だってあの時・・・)

  「あの時、『君を好きになる努力する』って、確かに、僕は言った」
  「う、うん」

  (言った!だから、俺・・・!)

  「言った、けど、」
  「けっ・・・けど・・・??」

  (何故、そこで逆接形??)

  「恋愛感情は有り得ないよ?」

  「・・・へっ!?」

  (なにぃーーーーーー!?!?)

  「あれはね、仲間として、“嫌な奴、ムカつく奴”って、少しでも思わなく
  なるように努力するってことだったんだけどな?」

  そんな、思いもよらない言葉を吐くその表情は、全く悪意がなく、
  むしろ小首なんか傾げちゃって可愛いくらいで、危うく当麻は、

  「ああ、なるほどなー、そっかー、せやったんかい・・・・・・」

  納得しかけてしまった。

  が、さすがにそこまで単純でもない。

  「って、おいっ!ちょちょちょちょちょっと待った!ほなら、なんでまた・・・っ」

  「君と寝たかって?」

  無言のまま赤ベコ人形のように頭を上下に振る当麻。(若干泣きそうである。)

  「そりゃ、記憶にはなくても、もう既に一回はヤっちゃってるんだし・・・。
  それに僕だって、男だからね、溜まったからって、いつも自分の右手じゃ・・・
  ってのも理解できる。とはいえ、ナスティに頼むわけにもいかない。
  だろ?だから、協力してやろうと思ってさ。だって、君とのキス、思ったほど
  嫌悪感が湧かなかったから。まあ、コミュニケーションの一環としてなら
  いいかなーと。」

  「こ、こ、こみゅに・・・っ」

  「それに当麻、上手くなったと思うよ?やっぱり人間、“一つくらいは”
  いいとこあるんだなぁ。うんうん。」

  そう言ってニコリと笑う顔は、昔のような猫被りには見えない。
  当麻の最近の気に入りのひとつでもある。

  だがしかし、当麻の中で、何かがガラガラと音をたてて崩れていった。
  本当にガラガラ聞こえた。
  この表現が当てはまることが、現実にあるのだと、はじめて当麻は知った。


  毛利伸、恐るべし!


  メンバーの中で、一番の常識人かと思っていた(征士もある意味ぶっ飛んでるから)
  のに、それはとんでもなく大きな勘違いだったようである。


  「お互い満足できるしさー、一石二鳥だよね。じゃ、おやすみー★」


  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



  (この男に、貞操観念はないんかい!?)


  心の中でいかにツッコミを入れても空しいばかり。

  羽柴当麻の、淡い恋心は見事に玉砕したと言っていいだろう。


  そして、これから先、強敵毛利を陥落させるためさらなる努力を続けるか、
  それとも、これをもって健全な道に軌道修正となるか。
  それはまだ、誰にも分からない。


  とにかく、ガンバレ、当麻っ!!
  とだけ、言っておこう。

 

  END
 

   

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