8月の盆休み 

   

  当麻と伸の二人暮らしが始まって、初めてのお盆休み。
  の、ちょい前。

  先ず遼から連絡があった。

  「お前等んち、遊びに行っても、いいか?」

  遼も最初ちょっと言いずらそうな感じだったけど、伸も少し気恥ずかし
  かった。

  とはいえ、もちろん遼を拒むわけがない。

  「うん。おいで。ちょっと狭いけど、腕によりを掛けてごはん作って
   待ってるよ」

  と、快諾した。

  遼のお誕生会も兼ねよう!そう思ったら急にウキウキしてきた伸。
  彼らはもう社会人だから、最近全員揃って会うことは稀だ。
  で、思い切って他の面子に声を掛けてみた。
  けど、遼が来ると言った休み初日は、遼だけが都合のいい日だった。
  当麻と3人で遼の誕生祝いでもいいか。
  そう思いながら、料理のメニューを考える伸だった。

  そして当日。
  ピンポーン♪ ガチャっ

  「よお!」
  「いらっしゃい」

  ああ、僕の太陽・・・!なんてことを思いつつあがってもらう。

  「そうだ、当麻なんだけど、急に研究所に呼ばれちゃって、今日は遅く
   なるって。ゴメンね」

  「へー!大変なんだな。残念だけど、しょうがないや」

  実はそこで遼も伸もほっとしてたりなんかする。
  やっぱりまだ二人なとこを見るor見られるのは恥ずかしいから。
  そんなこんなで、楽しく時間は過ぎ、夕飯も終わったところで。

  ガチっ がちゃがちゃ ガチャっ


  「あ、当麻、帰ってきたみたいだな」

  「うん」
  てなわけで、二人でお出迎え。

  「よお!」

  「おかえり」
  「おう!ただいま〜」
  「夕飯は?」
  「いや。まだや。ぺっこぺこー」
  「わかった。」
  「・・・」←遼

  3人で食卓を囲みつつ
  「相変わらずよく食うなぁ、当麻。」
  「(もぐもぐもぐ)おう!」
  「エンゲル係数高くて困るよ、ほんと・・・。」
  「(もぐもぐもぐ)その分ちゃんと稼いでるやん!」
  「僕も稼いでます。それに、家計なんてちっともわかってないくせに、
   そういうこと言うな!」

  「・・・」←遼
  「(ごっくん)・・・そや!遼は?今晩泊まってくんやろ?」
  「あ、あぁ、いや、実は11時の電車乗ってオヤジんと行かなきゃなんなく
   なって・・・」

  「なんだって。もっとゆっくりできればよかったのにね」
  「ほーかー。ほんま残念やなー。伸とのラブラブなとこ見せた・・・」

  ドカっ!!

  「あぃてっっ」
  ギロリ()伸、当麻をめっさ睨む。
  「・・・」←それを見る遼

  で、遼帰宅まであと15分。他愛もない会話が一区切りしたところで。
  「・・・あ、あのっっ、な、なあ!」
  何故か急に意気込んで遼が身を乗り出してきた。

  「な、なに??」「な、なんや??」

  「俺っ、じ、実は俺っ、お前らが付き合うって知って、それで、色々調べた
   んだ・・・。・・・で・・・それで・・・!」

  「「・・・で・・・?」」どきどき

  「お前らって、」

  「「う・・・うん・・・。」」なんか、ヤ〜な予感

  「やっぱ・・・、その、やっぱり・・・!」

  「「う・・・うん・・・。」」(汗)

  「やっぱ、いいや!!」あははははー

  「「はぁ〜〜〜〜〜〜〜」」なんだよおい〜

  そして、玄関先。
  「ほんと。今度はもっとゆっくりしていきなね。」
  「他の奴にもまた声掛けるしな」
  「ああ!忙しなくてすまなかったな。でも、うん。二人に会えてよかった!」
  「うん。」「ああ。」
  「またな!」
  「元気でね」「元気でな」
  去り行く遼の後ろ姿に向かってにこやかに手を振ろうと手を上げたところで・・・

  くるり←遼

  「やっぱ、お前らの場合って、当麻が、“攻め”で、伸のほうがいわゆる、
   “受け”ってやつなんだろ?な?当たりだろ!」

  ニコーーーっ!

  『はいぃ???』二人、心の中の叫び。

  「じゃーなー!」
  何故かすっきりとした表情で去る真田遼。

  ガチャっ バタン

  玄関に凍りつく二人。

  「遼、調べたって・・・」
  「一体何調べてんねん・・・まー、当たっとるけどな」

  ドカッ!!

  「あぃってーーーっっ」

  そんなお盆休み初日。

  ★★★

  「おう!こないだは残念だったなー。遼、元気だったか?そんでよ、急だけど
   明日うち店休みだから、おめーらんとこ邪魔していいか?俺っとこの料理
   持ってくし。じゃ、よろしくなー!」

  ガチャン!

  「おいおい・・・いいともなんとも言ってないだろ・・・」
  「なんや?秀か?」
  「うん。明日来るって」
  「ええやん。別に出かける用もなかってんねんし」
  「そうなんだけどさ。・・・そだね。ま、いっか。料理作んないでよさそうだし」
  「お!あいつ、店の料理持ってきてくれるん?」
  「らしいよ」
  「ほら、楽しみやなー♪」
  「なに、僕の料理は楽しみじゃないと?」
  「ほんなわけないやんな!どんだけ俺が伸の料理を好きかって、お前自身よりも
   好きなくらいやないな!」

  「へぇ〜・・・」

  (しもたーーーーーっっ!!)汗汗汗

  そして翌日。

  ピンポーン♪・・・ガチャっ

  「っじゃましまーす!」
  「いらっしゃい。」
  相変わらず無駄にパワフルだなー。なんてことを思いつつあがってもらう。

  「よお!」
  「お!当麻!元気かー?このやろーっ」
  じゃれあうデカイ動物()が2匹。

  「へぇ〜!なかなかいいマンションじゃねーか。うんうんうん。」
  とか言いながら、各部屋を見て周り。
  「さすが。キレイにしてんなー!当麻、おめえ、伸に頼ってばっかいんじゃ
   ねーぞ!」

  「・・・・・・・・・」←引き攣る笑い顔の当麻
  「えーそんなことないよぉ。今日なんか、当麻が“自主的に”掃除も洗濯も
   してくれたし。なー?」ニコ!

  「え!?そーなのか?へぇ〜!人間変われば変わるもんだなー!」
  「だよねぇ」
  「ハ・・・ハハ・・・・・・。」←変な汗をかく当麻

  そして妙なテンションで中華料理を完食。
  デザート&お茶タイム。
  ところが、秀が急に腕を組んで、やたら真剣な面持ちで切り出した。

  「そうだ!お前らさー、マジ大丈夫か?」

  「「だ、ダイジョウブ・・・って?」」どきどき

  「どうも今日の二人見てっと、新婚ホヤホヤの割りになんかこう、ぎくしゃく
   してるように感じんだけどよー」


  『し、新婚〜〜〜っ?!?!』二人、心の中の叫び。

  「え?そ、そうかな?」「え?そ、そうか?」
  なんだかよくわからないが、とりあえずリアクションだけは返す二人。

  「おう!で、だな。」
  テーブルにぐっと身を乗り出す秀。

  「「う・・・うん・・・。」」なんかヤ〜な予感。

  「お前ら、ちゃんとヤるこたぁヤってんだろうな?」

  『はいぃ???』二人、心の中で再び。

  「俺、これでもおめーらのこと心配してやってんだぜ。ほら、せっかく一緒に
   なったってんならよ、うんぬんかんぬん

  (以降5分ほど説教のような言葉が続き)

   でな、これ、俺の・・・(ガサゴソと鞄を探る)、よっ・・・と、ゲイの友達に
   もらってやったから、よかったら使え!」

  ドン!

  秀・・・。

  その後何を話したか、二人とも朧だ。
  来た時と同じように秀は機嫌よくパワフルに去っていった。

  ちなみに最後の台詞は、

  「新婚生活、ちゃんと楽しめよーーー!」

  どこのオッサン・・・?
  そしてテーブルの上のブツを見て思った。

  (秀、やっぱりお前って、よくわかんないけど、すごい奴・・・。)

  「もう、持ってんねんけどな・・・潤滑剤」

  ドカッ!!

  「あぃってーーーっっ、なんでやねん!」

  そんなお盆休み中日。

  ★★★

  「そういうわけで、だ、もし伸達の都合が悪くなければ、是非邪魔をさせて
   もらいたいと・・・」

  「さすが、征士は律儀だなー。いいよ。大丈夫。是非おいでよ」
  「そうか?いや、すまんな。休みも最終日なのに」
  「いいって。僕はそうでもあいつには関係ないし。ちゃーんと、おもてなし
   させて頂きますヨ」

  「ありがとう。では、明後日」
  「うん。気楽にどうぞ」

  なんとなく予感はあった。

  遼、秀、ときたら、絶対最後の一人もこの期間内に来るだろうと。

  「やっぱ征士か?」
  「うん。あさって来たいって。いいだろ?」
  「え?あ、ああ・・・!まぁ・・・もちろん」
  「??なんだよ、妙に歯切れが悪いな」
  「ほ、ほーか?ほんなことあらへんよ!えーやん。別に。問題なしや」
  「ふーん・・・」
  疑心暗鬼の視線を残しつつ、ベッドに入る伸。
  相方がいるのと反対側から。


  と、
  ごそっ・・・もぞもぞもぞ・・・

  ぺしっ

  「ダメ。今日はやだ!」
  「今日は・・・って、なんでやねん!この盆休み中ずっとご無沙汰やん!おかし
   ないか?」

  「いーや、ぜんぜん、おかしくないね」
  「なぁ、ほら、こないだ秀がくれたやつ試してみいひん?あれ、ピーチの
   香りって・・・」


  ドカッ!!

  「あぃってーーーっっ」
  「バカ?」
  「う〜っ・・・。だって俺ら、あいつ言うとこの新婚ホヤホヤやろ?なら、こんな
   長い休み中やったら、そらもーいっちゃいちゃして当然なんちゃう?」

  「なんで?つーか、ホヤホヤなんて気はないね、全く。どんだけ長い付き合い
   だよ。とにかく、早く寝かせろ。明日は明後日の征士が来る準備しなくちゃ
   ・・・いけ・・・な・・・・・・か・・・・・・・・・(すやすやすや〜)」

  「ええっ?!もう寝たんかい!早すぎやろっ、おい!」
  空しいツッコミが新居に響く。


  ピンポーン。
  押す人間が違うと、その音までも真面目に聞こえるから不思議だ。

  「はーい。ほら、当麻、だらだらしてないで、ちゃんと起きろよ!」
  そう言いながらリビングに転がる塊を足で小突いて、玄関に駆けてゆく。
  その後姿をちろりと眺める若干不貞腐れ気味な奴、約1名。

  「いらっしゃい!」
  「すまんな。休みのところ」

  「何言ってんだよ。征士だってせっかくの休みにわざわざ来てくれたんじゃ
   ないか。さ、あがってあがって」

  「うむ。邪魔をする」
  相変わらずの馬鹿っ丁寧さに、苦笑しつつも安堵を覚え、あがってもらう。

  「おお、当麻。久しぶりだな。今日は邪魔をする」
  「おう、ほんま邪魔やな」
  相変わらず、ラグの上でゴロゴロしつつ。
  「当麻!」
  「ふっ・・・、変わらんな。元気そうでなによりだ」
  「征士って、大人だよねー。全くこいつはいつまで経っても子供でさー」
  「伸!」
  「はいはいはい。・・・ああ、ごめんね、征士。あっちに座ってて。荷物は適当に。
   飲み物はお茶がいい?紅茶?コーヒー?お酒は夕方になってからでいいよね?」

  「あまり気を遣わんでくれ。そうだな、久々に伸の淹れた紅茶が飲みたい。」
  「おっけー、わかった」ニコ!
  ぱたぱたとキッチンに入ってゆく。
  その後姿を見送る当麻の顔の中心には、深〜い溝。


  「どうした当麻、ここに皺が寄ってるぞ。」
  と、征士が嫌味なく微笑みながら眉間を指した。
  「誰のせいや思てん・・・!」
  当麻はさらにほっぺたまで膨らませる。

  すると−−−


  「ふっ・・・ははっ、ははははは!」

  座ったソファで仰け反って珍しく大笑いする征士。

  「何、わろてんねん!こら!」
  「い、いや、すまん。ぷっくくくくくっ」
  「マジ、むかつくわー」

  「何?やけに楽しそうだね?」
  伸がきた。
  カチャカチャと紅茶の準備。手作りの菓子も並べて自分も座る。

  「いや、お前たちが幸せそうでよかった、と思って、な」

  『はぁ?!どこが???』二人、心の中の叫び。

  「「・・・・・・・・・・・・・・・」」微妙〜という表情丸出し。

  「ん?違うのか?」
  「え?いや、まぁ・・・」「え?そら、まぁ・・・」
  きらきらと輝く王子様(お殿様?)オーラに返す言葉もなく。

  そんな二人にはお構いなく、征士は、出されたカップに口をつけ。

  「うん!やはり、伸の淹れた紅茶は絶品だな。昔も、こうまで違うものかと
   感心したものだが」

  「え?あ・・・、あ、ほんと?そんなに良い茶葉じゃなくて申し訳ないけど」
  「いや、やはり淹れ方の問題ではないか?」
  「そうかな。でも、征士に褒められるとなんだか嬉しい」
  珍しく照れ笑いなんか浮かべる伸。

  「そうか?」
  キラキラオーラ発信!

  「うん」
  キラキラオーラ受信!
  「私は事実を言ったまでだが?」
  「征士ったら、ほんと、僕をのせるの、うまいんだからぁ〜」


  (なんやこの二人!これじゃまるで、あっちの二人がデキてるみたいやん。
   なに、いちゃいちゃしてんねん!それは俺のポジションやろー!!)


  「当麻。ね、当麻!おい!また目ぇ開けたまま寝るなよ!」
  「寝てないわ!またって、人聞きの悪い。そんな器用なことできるかい!」
  「そうだっけ?ほら、当麻にはコーヒー淹れたよ。このお菓子も好きだろ?」

  「・・・・・・」
  (俺、愛されてる?)って、少し思った当麻だった。

  「どうした?」
  「何?コーヒー、苦すぎた?」
  「いや・・・。えへへ、ありがとお」

  征士と伸は顔を見合わせ、大笑い。
  当麻は照れ笑い。

  その後は、まぁ、そこそこ楽しく時間も過ぎ。

  そんなこんなで、時間は過ぎ、帰りの玄関先。
  靴を履いたところで。

  「あ!そうだ!ごめん、征士、ちょっと待っててくれる?」
  伸が奥に消えた。


  残された二人。少しだけ空気が変わる。

  「・・・当麻」
  「んー?」
  「今日は、せっかくの“二人だけの”休みを、邪魔して悪かったな」
  「え?・・・いや・・・別にぃ・・・」(二人だけを妙に強調してへん?)

  「まあ、今更私が釘を指すまでもないと思うが・・・」
  「な・・・、なんねっ」どきどき
  「・・・伸を・・・」
  「・・・を・・・?」
  「伸を、大切にしろよ」

  「うっ・・・ほ、ほんなん言われんかてわかっとるわ!」
  「そうか?」
  「な、なんやねん・・・」どきどきどき
  「ふっ、まぁ気は抜かんことだ」
  「へ?」
  「伸がお前に愛想を尽かしたら、次はすぐ近くにあるということだ」
  「な!せっ・・・!」

  「お待たせー。ごめんね。玄関で待たせて。お土産包むの忘れてたー。
   はい、これご家族に。手作りで恥ずかしいけど、君も前に美味しいって
   言ってくれたやつだから、よかったら」

  「何から何まですまんな。みなも喜ぶ、有難う」
  はい、再びキラキラ光線発動〜☆

  「ううん。とんでもない。お構いもしませんで。また来てね。」
  キラキラ〜☆

  「ああ、是非そうさせてもらう」
  キラキラキラ〜☆


  (だから、なんやんねんなー!この二人の雰囲気!)

  当麻、青筋立ててずいっと征士に顔を寄せ、小さな声で叫んだ。
  「征士、お前にだけは、ぜっっったい、渡せへんからな・・・っ」

  そして、おもむろに、ぐりっと伸の方に向き直り・・・

  「「!!!!!」」←征士&伸

  ブチュウーーーっっ
  した。


  伸、征士、固まる。

  が、先に正気に戻ったのは征士。

  「ぷっ、ぷぷぷっ、くっ、はっはっはっはっはっはっはっ!いや、
  本当に今日は楽しかった。ぷっ。では、また来る。伸によろしくな。」

  と、さっさとドアの向こう側へ消えていった。

  「二度と来んな!ボケーっっ」
  停止してしまった伸を腕の中に抱えながら吠える当麻だった。

  その晩、当麻の、謝る声と呻く声が、マンションに響き渡ったとか
  渡らなかったとか。



  でも・・・
  「だって、お前らのほうがお似合いに見えて、寂しかってん・・・」
  蹴られまくられた向こう脛を抱えて蹲る当麻はしょげまくり。

  「・・・」
  それを、般若の形相で見下ろす伸。

  「俺、伸のこと大好きやけど、ほんま大切にしてるかゆうたら自信ない
   ねんもん・・・」


  ふう〜・・・伸は大きく大きく溜息を吐く。
  「まったく、ほんとに・・・バカなんだから」
  ふわり、表情一転、苦笑いを浮かべつつ、縮こませたデカイ図体を包む。

  「僕は、君を、選んだろ?」
  遼でも秀でも征士でも、女の子でもなくね。

  「伸・・・」
  「大丈夫だよ、大丈夫だから・・・」
  ほんと子供みたいだなーと思いながら、頭をナデナデしてやれば―――、

  「・・・伸・・・っ!ほんま、愛してるーっ」

  がばーーーっ!!

  ドカッッ!!

  「あぃっでーーーっっ、だから、なんでこうなんねんっっ!俺、今、
   タイミング間違ってへんかったろ?」


  「それとこれは別ってことじゃない?」

  結局いつもの展開で落ち着く、お盆休み最終日。



  めでたしめでたし。(え)

 
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