「あーっ!そうか!」

「きゃっ、なっ、なに?急にどうしたのっ?!」

「あっ、いや、うん・・・、なんでもないっ」

僕は隣に人がいるのも忘れて、自分の思いつきに嬉しくなり、思わず大声を出してしまった。

「えっ?ちょ、ちょっと!どこ行くのっ」

「散歩っ!」

「散歩〜っ?!散歩って、ちょっ、待ちなさいよっ、お手伝いの最中でしょっ」

「ごめーんっ、また後でーっ」

「『また後で』って・・・、それじゃ意味ないのよーっ、こらーっ、待ちなさぁーーーいっ!じゅーーーーーんっっ」



僕、山野純は現在、変わった人たちと一緒に生活している。
やむを得ない事情により。

僕と、さっきお手伝いを強要してきたお姉ちゃん(血のつながりはない)は、いわゆる一般ピーだ。
まぁ、このお姉ちゃんも、傍から見れば、十分変わり者だと思うけど。
けど、僕が言う、『変わっている人たち』とは、お姉ちゃんのことじゃない。そんなもんじゃない。そもそもレベルというか、次元が違う。

“変わり者集団”の彼等は、総勢5人。
全員男子で、一人を除いて、4人は同じ学年で、まだ中学生だ。(ちなみにこちらも誰一人、血のつながりはない)
で、どうして僕がそういう血縁関係のない人たちと共に暮らしているかというと・・・。


“突然現れた、ざっくり言うところの“悪”の一味と戦っているから”


だ。


5人の兄ちゃん達というのは、立場的には、所謂“正義の味方”ってやつ。
そして、その悪者のせいで両親とはぐれてしまった、いたいけな小学生の僕。
と、お兄ちゃんたちが戦うときに身に付けているものの研究者だったお爺ちゃんの孫にあたる、お姉ちゃん。
なお、その彼女のお爺ちゃんは、戦いが始まって早々に亡くなった。

この計7人と、プラス虎1匹の面々が、偶然と必然が重なって、行動を共にすることになり、で、断続的に続く、その“悪”との戦いのため、僕等はお姉ちゃん、の、お爺ちゃんが所有していた家で共同生活を送っている、というわけだ。

ちなみに今は、休戦中。
向こう()にも色々事情があるらしくって、攻撃してこなければ、この世界はいたって平和なもんで。
とはいえ、いつまた攻撃してくるかわからないので、解散するわけにもゆかず。
僕の両親もいまだ行方不明だし・・・。

てなわけで、とりあえずは平穏な日々、のはずなんだけど・・・

なんだけど・・・

せっかくの貴重な平和な時間なのに、現在この家の中は、とてもピリピリしている。

それは何故か?というと・・・

お兄ちゃんたちの内の2人が、ここ最近、ずっと変だから。

どう変か?と、言うと・・・

そもそも、いつも変なのに、もっと変。

あ、そうそう、ここで、お姉ちゃんと、お兄ちゃんたちを個別に紹介ておこう。

先ず、お姉ちゃん、と僕が呼んでいる人、名前は、ナスティ柳生。年齢は、厳重に口止めされているけど、まだ10代。(なのに、車を運転してるんだよね・・・)
ハーフだかクォーターだか、外人の血が混じってて美人だけど、この人の作る料理は、生き物に与えてはいけない。これで妖邪()が倒せたらいいのに・・・、とは、本人には言えないけれど、みんな裏で言ってる。

そして、5人の兄ちゃんたち。

一応、リーダーからいくと・・・

真田遼。リーダーといわれているわりに、小学生の僕よりよく泣く。責任感が強いのかもしれないけど、すごく自虐的だ。時々みんな扱いに困っている。でも、すっごく純粋で良い人であることは間違いない。ペット(・・・じゃなくて、守護神的な生き物?)が虎っていうのも驚いたけど、まぁ、普通の虎じゃないし、も僕はもう慣れた。慣れれば可愛い。その虎の名前は、白炎。

次は・・・誰かなぁ。征士兄ちゃんかな。
伊達征士。見た目は日本人じゃないけど、中身はガッツリ武士だ。それに、はっきり言って、すごく恐い。自分に厳しく、他人にも厳しい。子供の僕にだって容赦なしだ。目を瞑って、その話しっぷりを聞いていたら、誰も中学生とは思わないと思う。でも、真面目すぎる分イジリ甲斐もある。お姉ちゃん曰く、この人の笑顔を見たら、女はみんな、腰砕けになるらしい。僕にはわからないけど。

それから次はぁ・・・、当麻兄ちゃんにしようかな。

羽柴当麻。この人は世間で言うところのイケメンだ。タレ目だけど。それに、すんごく、頭が良い。IQの高さは、もう人間じゃない。ただ、その分、凡人を理解できないようで、かなり世間とのズレがある。きっと彼は、学生生活どころか、生涯に渡って、生きていくのに苦労するに違いない、と、僕ですら心配になるほどだ。でも、きっとそんなことすら、気にしないタイプだね。

それから、次は、秀兄ちゃん!

秀麗黄。知能レベルは、非常に残念なことに、僕と同等かそれ以下と思われる。でも、その分、一緒にいて、一番楽しい。中華料理屋の大兄弟の長男だそうだから、子供の扱いには慣れているんだろうけど、思うに、普通に僕と同じレベルなだけのような気もする。典型的脳みそ筋肉系男子。現代では貴重な肉食系ってやつ。あ、見た目は、まぁ普通、かな?

ここまでが、同学年の4人。

でもって、残す一人が、どういうわけか1人だけ1学年上の・・・

伸兄ちゃんだ。


毛利伸。僕たちは、この人のお陰で、生き延びられている、と言っても過言ではないだろう。炊事・洗濯・掃除、全ての家事は、彼が仕切っている。(何故こんなにできるのかはイマイチ不明)お姉ちゃんの料理があれだったため、どんな食生活になるかと恐れ戦いていた僕たちにとって、彼は救世主だった。だから、決して悪口は言えない。・・・けど、一言言わせて貰うと・・・、伸兄ちゃんも、すごく怖い。征士兄ちゃんとは違う意味で。怒らせたら、たぶん一番怖い。見た目が可愛い(あ、これも本人の耳に入ったら半殺しだ)分、笑いながら怒るときの目は、一瞬で人を凍りつかせる。


と、まぁ、以上が、僕を含めた7人の住人ってわけ。

ね?
強烈な人たちでしょ。

それで、現在、僕がとりわけ変だ、と言っているのは、前述の、泣き虫遼兄ちゃんと、社会不適合当麻兄ちゃんの2人。

考えなしに突っ込むタイプの遼兄ちゃんと、頭で考えてばっかりの当麻兄ちゃんじゃ、性格があうはずもないっちゃーないんだけど。
それにしても、この2人、戦ってる最中よりも、平和になった今のほうが、どういうわけだかずっと揉め通しで・・・。
やたらとお互いに突っかかって、いがみ合って。
ちょっと・・・、戦う相手違うんじゃない・・・?、ってなくらい。
いや、それにしては、なんだか、子供じみてて・・・、まぁとにかく変、なんだよね・・・。

そんな2人に対して、他のメンバーはどうかというと、秀兄ちゃんは、兄弟喧嘩に慣れているせいか、傍観・・・、というか、観戦してるだけ、という以上に、楽しんでいる風ですらある。おっさんみたいに、「おーおー、今日もやっちょるやっちょる」なんて言ってさ。
征士兄ちゃんは、全く関与しない。一度、「とめなくていいの?」と、訊いたら、「勝手にやらせておけばよい」のひと言で片付けられた。
なので、だいたいは、お姉ちゃんが「いい加減にしなさーい!」って、怒り出すか、伸兄ちゃんが仲裁に入って終結となる。


そもそもこの5人組は、別に“仲良しこよし”じゃない。
“仲良し”どころか、知り合いですらなかった。
それぞれ別々の場所で生まれて、全く違う環境で育って、ある日突然、戦いが始まって、始めましての挨拶もしないうちに、いきなり一緒に戦うことになったんだ。

でも、色々苦難を乗り越えて、やっと少しずつお互いを知って、仲良くなってきたかなぁ、と思っていたのに・・・。

そう、それともうひとつ、気付いたことがある。
遼兄ちゃんと当麻兄ちゃんは、いっつも、年がら年中喧嘩しているってわけじゃないんだよね。
だから、心底嫌いあってる、ってほどでもないんだろうなーとは思う。
思うんだ、けど・・・。

でも、兄弟喧嘩とも違うし(と言っても、僕も一人っ子だからよくわからないけど・・・)、男同士のプライドのぶつかり合い、って感じでもないし、でも、なんとなく、この光景、見たことがあるような気もするし・・・で、僕は、2人が険悪な雰囲気になってるのを見ると、いつもモヤモヤしてた。
小骨が喉に刺さった、って言うの?そういう感じ。


それがさっき、突然に思いついたのだ。
あの、兄ちゃんたちの状況と関係性の名前!

そう!

それは・・・!

じゃーーーん!!


“つなひき”だ!


そうなんだ。
さっきお手伝いの途中で思いついたのは、この“つなひき”という言葉。
あんまりぴったりくるもんだから、つい興奮しちゃって、誰かにこのことの確認をとりたくなった。(何故か、お姉ちゃん以外で。)

誰がいいかな?
征士兄ちゃん?

・・・絶対違う。

伸兄ちゃん?

・・・これもちょっと違う気がする。

じゃあ、やっぱり、秀兄ちゃんだ!



「秀兄ちゃんっ!」

「おっ、純、どうした、大慌てで」

僕は咄嗟に辺りを見回した。

よしっ、誰もいない。

「おーおーおー、なんだよぉ〜、ナイショ話かぁ〜?」

なんていい察しで、いい食いつきっぷり!
さすが、秀兄ちゃん!
そうこなくっちゃ!


やってたゲームを中断してまで、僕に構ってくれるのは、秀兄ちゃんの優しいところだ。
ただ単に、ゲームに飽きてきたところだったからかもしれないけど。

とにかく、僕は、早速自分の思い付きを口にした。

「ねえっ、あのさっ、僕、思ったんだけど、遼兄ちゃんと、当麻兄ちゃんて、なんだか、“つなひき”、してるみたいじゃないっ?」

すると、秀兄ちゃんは、一瞬、ぎょっとした顔をして、それから、大笑いして。

「すっげーな、おいっ!純〜っ、お前、いつの間に、そんな大人になったんだー、このヤロっ」

ぶっとい腕で、小学生の細い首を締め付けつつ、頭のてっぺんをグリグリしてきた。

「たたたたたっ、イッタイよっ、秀兄ちゃんっっ」

「で?なんで、そう思ったんだ?」

秀兄ちゃんは、すぐに僕を放すと、今しがたまで寝転んでたベッドの上に胡坐をかき、腕組みをして訊いてきた。
その顔は、いかにも楽しそう。
僕は、兄ちゃんの横に腰掛けて、考えた。

どうして、あの2人の関係を“つなひき”だと思ったのか?

「うーん・・・、なんていうか・・・、遼兄ちゃんと当麻兄ちゃん、最近いっつも、イガイガしてるでしょ?」

「あーあー、うんうん、そーだなー、してるなー」

「でも、喧嘩っていうのともちょっと違う気がしてて・・・」

「まぁ、ああいう兄弟喧嘩もないことはないけどな・・・。ふんふん、そんで?」

「あ、うん、それでね、さっき思いついたんだ。あの2人、“つなひき”してるっぽいなぁ、って」

「なるほど!そりゃ、なかなか鋭い。いい勘してるぜっ、純!」

「そっ、そぉ?」

褒められて、ちょっと照れくさい。
でもって、僕は、それでもう満足だった。
自分の思いつきが認められて、褒められて、それで十分。

だったのに・・・


「で?」

「えっ?」

「で、それから?」

「え?・・・そ、それから、って・・・?」

「んあーーーっ、まー、そうかぁ〜、さすがに、そこまでかぁ〜。まぁ・・・、だよなー。仕方ねぇっちゃ、仕方ねえか、うんうん」

「なっ、何っ?なんだよ、秀兄ちゃん!何が、『仕方ない』のっ、『それから』って何っ??」

しかもどうして、そんな思わせぶりなわけっ?
これで気にするな、っていうほうが無理ってもんだよっ!

すると、秀兄ちゃんは、真面目は顔になって、僕の両肩にそのごつい手を乗っけた。

「なぁ、純よ・・・」

僕のお尻が、ベッドに沈んだ。

「ぅっ・・・なっ、なにっ?!」

「あの2人が、お前の言う“つなひき”状態ってのは、超ズバリ!だと、俺も思うぜ」

「ほんと?」

「おうよ。だがな、考えてみろ。“つなひき”は、2人ぽっちじゃできねぇ。だろ?」

・・・ん?

え?そ、そうかな??
綱引きは、2人でもできる、よね?
秀兄ちゃん、いったい何を言いたいんだ?

「え???どういうこと?」

不本意ながら、僕はこの会話に、どんどん惹きこまれていった。
秀兄ちゃんは、わが意を得たり、ってな顔で、諭すように続けた。

「純、“つなひき”には、何を使う?」

「・・・そりゃぁ、綱を引く人と・・・、綱・・・でしょ?」

「その通り!で・・・、なら、お前、あいつらは、いったいどんな綱を引っ張りっこしてるんだと思う?」

「へ?え、ええっ?・・・“どんな綱”、って・・・だって・・・」

“綱”は、“綱”でしかないでしょ?

でも・・・、そうじゃない、ってこと?

そんなの、小学生の僕には難しすぎるよーーーっ!

頭上に?の冠を点滅させている僕に、秀兄ちゃんはニコリ・・・、いやニタリと笑いを浮かべて。

「ま、もうちっと、よぉうく、あいつらを見ててみな。そしたら、大人なお前にだったら、きっとわかるぜ」

「えーっっ!秀兄ちゃん、教えてくれないのーっ?!」

「なーに甘いこと言ってんだ、あたぼうよ、こういうことはな、他人から聞くより、自分で発見したほうが、おもしれぇんだ」

面白い、って・・・。
そうなの??

なんか、秀兄ちゃんが示唆していることを理解できない自分がすごく子供に思えて、逆に、秀兄ちゃんが、すごく大人な男に・・・、っていうか、格好よく見えちゃったりなんかして・・・。
それがちょっと悔しかったりして・・・。

そんなわけで、僕は、兄ちゃんの言うとおり、2人の観察を続けることにした。
絶対に答えを見つけてやる!という意気込みを持って。



そして数日後。


「あーっ!そうか!」

「きゃっ、なっ、なに?急にどうしたのっ?!」

「あっ、いや、うん・・・、なんでもないっ」

僕は隣に人がいるのも忘れて、自分の閃きに嬉しくなり、思わず大声を出してしまった。

「えっ?ちょ、ちょっと!どこ行くのっ」

「散歩っ!」

「散歩〜っ?!散歩って、ちょっ、待ちなさいよっ、お手伝いの最中でしょっ」

「ごめーんっ、また後でっ」

「『また後で』って・・・、それじゃ意味ないのよーっ、こらーっ、待ちなさぁーーーいっ!じゅーーーーーんっっ!・・・て・・・、ん?あら?これ・・・って、デジャヴ??」



わかった!
わかったわかったわかったーーーっっ!
わかったよっ、秀兄ちゃん!!


答えがわかったって、知ったら、秀兄ちゃん、ビックリするかな?

僕はウキウキと、はやる気持ちを抑えられないままに、秀兄ちゃんがいそうな場所へと突っ走った。

そう。
この“つなひき”の“綱”は、ある人物だ。

それは・・・・・・・・・

伸兄ちゃんだっ!

強烈な個性を放つ面々の中にいて、かろうじて、一番普通っぽくて、誰よりも一般人に近い、と、思しき兄ちゃん。

そうだ、遼兄ちゃんと、当麻兄ちゃんがいがみ合う時、そこには必ず伸兄ちゃんが絡んでいる。
伸兄ちゃん自身が絡んでいることもあれば、例えば、伸兄ちゃんが干した洗濯物だったり、伸兄ちゃんが作った料理だったり、お菓子だったり、掃除のことだったり、探し物だったり。
とにかく、2人の衝突には、何がしか、直接的・間接的にかかわらず、伸兄ちゃんへと繋がるんだ。
そりゃ、この家のこと全般的に仕切ってるのが伸兄ちゃんなんだから、っていうのもあるんだろうけど。
あるんだろうけど・・・、でも、たぶん、この答えは間違ってない!
だって、やっと気付いたけど、あの2人、伸兄ちゃんがいると、ずっとチラチラチラチラ目で追いかけてるもん!

うんっ!
この答え、確信あり!


探す必要もなく、目指す場所、そこに秀兄ちゃんはいた。


「ねっ!“つなひき”ってことはさ、僕がどっちかについたら、勝敗が決まるかなっ?」

ドアを開けるなり言い放った僕に、兄ちゃんは、一瞬驚きはしたものの、すぐに台詞の真意を察した。

「おおっ!純、わかったか?」

手にしたゲーム機からは、なんとも情けない音楽が流れてきて、僕はちょっと申し訳ない気がした。
でも、そんなことに頓着しないのが、秀兄ちゃんのスゴイとこだ。

「う、うんっ!」

僕は、気付いた点を兄ちゃんに説明した。

「ねっ?僕の答え、あってるよね?間違ってないよね?」

「たった数日で、よくそこまで見抜けた、正解だぜっ、純!」

「やったぁーーーっっ!

「な?答えは自分で見つけたほうが、嬉しいだろ?」

「うん!」

「よしよし。んじゃ、この話は、ここで終わりだっ」

「えっ?」

「純、悪いこたぁ言わねえ、どっちかにつく、とか、そんなことはやめとけ」

「えーっっ!どうしてっ?だって、勝負事はさ、決着がつかなくちゃ、面白くないじゃんっ!もしかしたら、遼兄ちゃんと当麻兄ちゃんの勝敗を、僕たちが左右できるかもしれないんだよっ?」

「あーーー・・・、なんつったらいいかなぁ・・・。うーん・・・。あのな、純よ・・・、他人の色恋沙汰にはな、無闇に他人が顔を突っ込んじゃいけねぇんだ」

兄ちゃん、そこは、『顔を突っ込む』じゃなくて、“首を突っ込む”でしょ。
とは、僕はツッコメなかった。

何故なら、そこ以上のツッコミどころがあったから。


「へ?イ・ロ・コ・イ?・・・えっ・・・遼兄ちゃんと当麻兄ちゃんて・・・、え?えええええええっっ?!」


「ええっ?!あり?そこんとこは気付いてなかったのか?・・・あー・・・そうかぁ・・・。なら、どっちかに味方したくなんのも、しようがねぇかな・・・。だけどよ・・・純、まぁ、つまりは、そういうことなんだわ。だからこの話は、ここで仕舞いにしろ、な?」


頷いたかどうか、ここから先の僕の記憶は非常に曖昧だ。
なんか、頭が真っ白になって、ふらふらと秀兄ちゃん、と伸兄ちゃんの部屋を後にしたのだけは覚えてる。

イロコイって、色濃い?胃炉鯉?慰労来い?・・・な、わけないよね・・・。

てことは、遼兄ちゃんと、当麻兄ちゃんは、伸兄ちゃんのことが・・・ことが・・・




って、・・・こと、だよ・・・、ね???ね???

――――――――っっ!!!

き、気付かなかった・・・。
ちっとも気付いてなかったよ僕っっ!!!


そう、この時の僕には、そこのところが何よりショックだった。


きっと、他のみんな・・・、征士兄ちゃんや、お姉ちゃんは、このことに気付いてたんだ・・・。
なのに僕だけ気付かなかった、知らなかった・・・!
なんてこと!!悔しいっ!ズルイよみんなっ!

ん???
ちょっと待てよ。


あれ?
じゃあ、伸兄ちゃんはどうなんだろう?
自分が、あの2人から想われてるって、知ってるのかな?わかってるのかな?

・・・たぶん、わかってるよね・・・、だって、“あの”伸兄ちゃんだもん・・・。

じゃあ、伸兄ちゃんは?
伸兄ちゃんは、遼兄ちゃんと当麻兄ちゃんのこと、どう思ってるんだろう?

いやいや、そもそも、どうして2人して伸兄ちゃんなんだろう??


僕の頭には次から次へと疑問が湧き起こって。
秀兄ちゃんが、『もう仕舞いにしろ』って言ったことも、すっかりきれいさっぱり忘れていた。

だから僕はさらに考えた。

確かに伸兄ちゃんは、このメンバーのうちでは、見た目可愛い担当だ。
性格は別として。
お姉ちゃんも美人だし、征士兄ちゃんも人間離れした綺麗さだけど、いわゆる普通っぽくて身近で親しみやすい可愛さといえば、やっぱり伸兄ちゃんだ。
うんうん。


それに、あの性格だって、別に、悪いとかそういうんじゃない。
征士兄ちゃんみたいに隙のない厳しさということもなく、当麻兄ちゃんみたいに薀蓄(うんちく)をタレまくることもなく、秀兄ちゃんみたいになんでも力任せなこともない。
お姉ちゃんとは・・・、あえて比較対象から外そう。
とにかく、伸兄ちゃんは、おっかないけど面白い。捻くれたとこもあるけど優しい。弱いとこもあるけど強い。
掃除もまめにするし、アイロンがけだって、お姉ちゃんがやるよりずっと美しい仕上がりだし。
そしてそして、何より、伸兄ちゃんの作る料理は、僕のママよりも美味しい!


そっか・・・なるほどねぇ・・・、ふぅん・・・


そうか・・・そうか!
なるほどっ!


伸兄ちゃんて、結構魅力的、なんだ・・・!


そうだったのかぁ〜・・・
“だから”、だったのかぁ〜・・・



で、そう思い至ってからの僕は、伸兄ちゃんのことが、どうにも気になって仕方なくなった。


で、気付けば伸兄ちゃんを目で追うようになっていて・・・。




そうして数週間後



僕は、ある人物に提案してみた。



「ねーねーっ、あのさっ、“つなひき”って、3方向から引っ張ったらどうなるかなっ?」



秀兄ちゃんが、盛大にソファから転げ落ち、プラスチックの砕ける鈍い音が響いた。




END


目次にモドル
リビングにモドル