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「な、俺のどこがよかったんだ?」
何を今さら・・・
彼の顔に、くっきりと文字が浮かんだ。
まぁ、自分でもそう思う。
でも、急に、あえて、どうしても、訊きたくなってしまったのだから仕方ない。
吸い込まれそうな、潤みの残る瞳を、真っ直ぐに見つめる。
彼がほろんと微笑んだ。
少し屈折した心情を表すシニカルな笑みを特異とする彼が希に見せるこの顔。
一瞬、理由なんかどうでもよくなった。
今、彼がここにいる
俺の傍に
すぐ近くに
それで十分じゃないか
と。
が、
でも、
やっぱり聞きたい!
ちなみに俺のほうは、彼がうんざりするほど言ってきた。
お前のここが好きだ、あそこが好きだ、なにもかも、ひっくるめて、全部全部好きだーっ!
と。
ところが、だ。
気づいてみたら、その逆は?
あれ?
そのことに、今、まさに今さら気づいた。
もちろん、この『どこが?』なんて質問が、いかに馬鹿馬鹿しく不毛なものなのかってことは、
重々わかっているし、くだらない子供じみた問いかけだってことだって、百も二百も承知。
でも、それでも、彼の口から聞いてみたい。
訊き出してみたい。
そうすれば、俺は、今より、今以上に、もっともっと幸せになれるんじゃないか?
今この瞬間の俺が。
そんな打算を含んで。
じっと彼を見つめる。
嗚呼・・・可愛い・・・・・・・・・
「ん〜、そぉだなぁ・・・」
お!マジで?
俺の切なる願いが通じたのか、意外なことに、茶化すでもなく、彼は真剣に答えてくれそうな雰囲気を彼が漂わせた。
「アホなところ?」
残念ながら俺の勘違いだったらしい・・・
若干気持ちが項垂れたものの、俺もめげない。
「あー・・・ちなみにそれは、褒め言葉として受け取っていいんだよな?」
「もちろん、どうしてさ?」
真面目な顔して、『どうしてさ?』って・・・
彼の天邪鬼ぶりは天下一だ。
飄々とふざけるなんて、朝飯前だもんな・・・。
俺はどうにか苦笑いを押し隠した。
「・・・いや」
「んー、それと・・・いつまでも子供みたいなとこもかなぁ」
え、
それも褒め言葉なのか?
とは、訊けない。
「・・・・・・」
彼は目元に笑みを湛えている。
クッソ・・・やっぱり、楽しんでやがる。
ならば、このまま任せたほうがいい。
他にもありませんかね?
俺は黙って視線で先を促した。
「すぐ拗ねるのも可愛いよ?」
それって今の俺か?
「あり得ないほど世間知らずなところも、面白い・・・と、言えなくもないかなぁ」
なんじゃそりゃ。
彼が意味ありげにニタリと笑った。
嗚呼、なーんか、すっげー、やな予感がする。
「ああ、声は好きだ」
えっ?!
え?え?
「実は、手も好き」
な、な、な!
やっべ、顔、熱っ!
「顔も好きだし・・・」
クラクラしてきた・・・
俺、夢見てんじゃね?
ベッドの上で左腕を下に横になり、隣でこちらを向いていた彼。
「カラダも・・・好き」
そう言うと、風の如く俺の上に馬乗りになり、サラリと人差し指の先で俺の腹に円を描いた。
「ぅひゃっいっ、ヤメロよっ」
ふふふん
と彼が笑う。
「なにより・・・」
前髪をかき上げ、
「君は僕に、」
そのまま上体を屈め、俺の顔の横に両肘をついて、
「甘すぎるくらいに甘いところ・・・か、な・・・?」
そうして降りてきた唇と絡んできた甘い甘い舌は、俺の全身を痺れさせた。
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END
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