東京から約2時間半。


「つまるところ、あなたが悪いんでしょ?」


さすがだ。

一刀両断。
ぐうの音も出ない。
お蔭で頭の天辺までグツグツいってた感情が、浪が引くように、冷めていった。

僕はどうにも治まらない気持ちを抱え、わざわざここまでやってきた。

京都

義兄の仕事の関係で、3年を期限に住んでいる姉のマンションだ。
遠すぎる本当の実家よりは圧倒的に近い、この第二の実家的な場所に、僕は時折訪れる。

まー・・・なんというか・・・、“実家に帰らせていただきます!”な嫁みたいだし、
やっぱり、自分が、どちらかといえば、嫁的立場にいるからなのだと、改めて
認識させられることにもなるから、なんとも微妙な心境にはなるんだけれども・・・、
それでも、近場の友のもとへ行くよりも、何故かこちらに足が向いてしまう。

で、来たら来たで、こうしてバッサリやられるのが常。

にもかかわらず、この効果は驚くほど抜群なのだ。

半日から数日経っても燻り続ける僕の憤りは、こうした姉の一言でアッサリ
引っ込んでしまう。

これが、姉弟という関係によるものなのか、それとも、近所でも有名な仲良し姉弟
だった我が家特有のものなかは、不明だ。

そして、

どういうわけか、

姉は、圧倒的に、当麻派だ。

贔屓も贔屓、超がつくほどのお気に入り。
尊敬、崇拝している、とさえ言っていい。

もちろん、旦那に対する愛情のようなものはない。

いうなれば、世界的権威に対する畏怖のようなもの。
まるで、歴史上の人物か、ノーベル賞受賞者を崇めるみたいな。

だから、僕がこうしてグチを言いに来ても、大抵は、当麻の肩を持たれる。

それはわかってるのに・・・。


彼女は頻繁にこの台詞を言う。

『当様君には、当麻君の生き方があるのよ』

当然、僕にだって僕の生き方がある。
だが、凡人である僕が、それを言うのは、おこがましい、のだそうだ。
僕は、そんな超天才の生活に、お邪魔させてもらってる、いや、ありがたく
お世話させてもらっている、ということになっている。
だから、僕の都合で、彼を煩わせるなんて、もってのほか!
論外、言語道断、笑止、無礼千万、身の程を知れ!
となる。

柔和そうな顔して、姉の物言いは、まさに、歯に衣着せぬ・・・、どころか、かなり厳しい。

普通、ここまで言われたら、怒るか凹むだろう・・・。

しかも、その先も、彼女の口からは、尽きることなく、当麻への賞賛の言葉が
紡ぎだされる。
いかに、当麻が素晴らしい人間であるかを滔々と述べるのだ。

それはもう、パートナーである、僕のほうが赤面してしまうほど。

見た目はもちろんのこと、あの我儘っぷりでさえも、賛美の対象になる。
よくもまぁ・・・と、感心する。

でもって、その言葉を聴いているうち、なるほど、そうかもしれない、と
刷り込みされてしまうところが、彼女の恐ろしいところ・・・もとい、スゴイところで。

・・・いや

だからこそ、

僕はここに来るのだろう。

つまるところ、僕自身も、心の片隅では同じことを思っているから。

たぶん。

ただ、どうしても口に出しては言えないだけで・・・。



そうして僕は、数時間を姉の家で過ごし、東京へ帰る。


当麻のもとへ。


僕を送り出す玄関先で、彼女は、締めの一言を忘れない。
笑顔とともに。


「でも、あなたはね、そんな当麻君が、惚れて惚れて惚れぬいた相手なのよ?
 だから・・・もっと、自信、持ちなさい」

「  うん」




END


屋根裏部屋の入り口へモドル
文章部屋の目次へモドル
リビングへモドル
ニッキへモドル