伸は可愛い。

つっけんどんに振舞ってはいるが、実は俺にベタ惚れであることを俺は知っている。
その証拠に、どんなに嫌がって見せても、最後には必ず俺の言うことを、俺からのお願いを
きいてくれるのだ。

もちろん俺も伸が好きだ。

だから将来は一緒に暮らしたいと思っているし、当然お子ちゃまみたいな恋愛ごっこを続けて
いくつもりも、ない。

手はとうに繋いだ。
最初のキスは1ヶ月前に済ませた。

だから俺は今晩、次なる段階へと進むつもりでいる。

あいつの、快楽に浸ったエっロい声を聞く!

それが目標。

共同生活のこの環境では難しいことだが、プランは既に練ってある。
準備は万端だ。


「当麻、ご苦労さ・・・あれ?」

伸は毎晩、書斎にやってくる。
コーヒーと夜食を盆に乗せて。

俺たちには、大事な時間だ。
この僅かな時間の積み重ねが、二人の関係を築いたのだから。

しかし、今夜は違う。

「・・・メモ?」

“離れの書庫にいる”

「えーっ、なんだよぉ、・・・もー面倒臭いなぁー」

伸は必ずくる。
そういう奴だ。
何だかんだブツくさ言っても、二人きりになれる貴重な時間をふいにするはずがない。
几帳面な奴のことだ。
カップに入ったコーヒーは魔法瓶に入れなおし、夜食はラップに包むかバスケットに詰め直して
くるだろう。

10分後・・・ってとこか。
・・・いかん、顔がニヤける。

コンコンコン、カチャ・・・

きたっ!

「とぉま〜?」
「おーこっちだ」

書棚を抜けて、伸が入ってきた。
肩にはトートバッグをかけている。

「・・・いつの間にこんなもん持ち込んだんだよ・・・」

彼の言うことはもっともだ。

「つい最近」

俺が寛いで足を投げ出しているこの簡易ベッドを黙って見つめる伸が、今何を思っているかは、
大体察しがつく。

少し頬が赤らんだ。

「ぁ、これ、はい」
「お、さんきゅー、悪いな」

礼を言うと、彼はいつでも少し照れた顔をする。
そのはにかんだような笑顔が俺は気に入っている。

真っ直ぐに見上げて微笑み返すと、彼はさっと視線逸らし、背を向けて、正面の書棚の本を
適当に引き出した。

俺の魂胆(の一部)を解し、落ち着かないのだろう。

安物のベッドは、俺が少し動いただけで、ギシリと嫌な音をあげた。
それに合わせて、彼の肩が小さく上下した。

手渡されたバッグの中から、魔法瓶を出して一杯だけ飲み、元に戻して床に置いた。

「伸」

意識的に声を抑える。
頁を捲っていた手が止まる。

「・・・なに?」

彼の振り向きさま、本を突き出す。

「これ、仕舞ってくんない?」

ほっとした表情をむっとした表情にすり替えて、
「んだよっ、そんくらい自分で戻せばいいだろ、もぉっ」
俺から本を引っ手繰った。

伸のそういうとこが好き。

思わず吐いて出た俺の言葉に対し、ったく調子いいんだから・・・っ、と文句が聞こえてきた。

が、次に耳に飛び込んできた台詞に俺は少なからずうろたえた。

「じゃ、僕は部屋に戻るから」

何の環状も篭らない声。
それがかえって俺の心臓をドキリとさせた。

えっ!?
いやいやいやっ、それはないだろう!

「伸!」

この位置からでは、ドアは見えない。
でも、立って追い駆けるのは、俺の流儀じゃない。

沈黙

さらに沈黙

物音もしない。

「アセった?」

ひょいと棚から顔が覗き、それから全身が現れ、流れるような歩みで俺の前に立ち、
片膝を乗せてベッドを軋ませた。

呆けていたいた俺ははっと我にかえって、彼の手をとった。

「アセったし、ビビった」

嬉しそうに笑い声をあげた彼に、胸がぎゅっとなる。
賢明な彼はスニーカーではなく、脱ぎやすいサンダルでここに来ていた。

「魂胆が見え見えなんだよ。こんなとこにこんなもん置いちゃってさ」
「でも、いいアイデアだろ?」
「・・・・・・まぁね。めっちゃ狭いし、五月蝿いけど」

そう言って、態と乗り上げた膝に力を入れた。

「贅沢は出世するまで待ってくれ」
「なんで君の出世をわざわざ待たなきゃいけないんだよ。自分で稼ぐっつの」

そう、伸はなかなかに漢だし、プライドは人一倍高い。
部屋の角に設置されたベッドの上で、俺は背を壁にもたせ掛け、伸を両脚の間に迎え、
そのほっそりとした腰に腕を回していた。

一方彼は、膝立ちで見下ろしつつ、繊細な指でするりと俺の前髪をはらい、耳の上髪を
梳くと、肩に腕を乗せ、年齢に見合わない妖艶な笑みを浮かべた。

俺はつい、引き込まれそうになる。

「キスしたい?」
「ああ、したい」

なんでこいつはこんなに綺麗なんだろう。
目を閉じて近づいてくる白い面と艶やかな薄紅色の唇に見とれながら、心からそう思った。

優しく降り注いできたそれを十分に堪能して、俺たちは離れた。

今までは、それで足りていた。
その後は暫く抱き合ったり、話をしたりして、寝るまでの時間を過ごす、それで幸せだった。
彼とこんな風になること自体が、信じられない夢の中の出来事のようで。
それを確かめるだけで精一杯、そんな感じで。

けれど、これを現実と漸く信じられるようになった今はもう、そんなんじゃ満足できない。

伸はどうなんだろう。
まだ次の段階へ進む気はないのだろうか。
恐れているのだろうか。

でも、ここにこうして、俺に背を預け座っているということは、少なくとも、俺を信用していると
いえるだろう。

後ろから彼を抱えて、肩に顔を埋めた。

「伸・・・」

うまくいきますように。
そんな殊勝なことは考えないが。
この体勢は、俺が狙ったとおりだ。
期待に胸が高鳴る。
そのまま顔を上げ、首筋を軽く吸った。
それから意を決して、彼のTシャツの内側へと手を入れた。

「−−−っ!ちょっ、ちょっと、当麻っ」

予想通りの反応が返ってきた。
俺はそのまま、片方の掌を滑らせ突起を捏ね、もう片方で脇腹を撫でると、面白いように
腕の中の体が撥ねた。

「えっ、ちょっ、や・・・っ、ちょっと、ちょっと待って・・・!」

いくら彼が抵抗しても、この体勢で優位なのは断然、俺だ。

「暴れるなよ・・・痛いことはしない。約束する」

息と一緒に耳元に囁く。
彼の体がふわりと熱くなったのが伝わってきた。

「お前に触れたいんだ・・・ダメか?」

こう言えばいいのだということは重々承知の上での言い回しと口調。
彼の内の、背徳感と好奇心の鬩ぎ合いが見えるようだ。
だが、結果は考えるまでもなく明らか。
その証拠に、抵抗の手が弱まった。

体に這わせた手は努めて優しく、耳裏や、首、肩口へ落とした唇からは甘い音を響かせた。
漏れ出る吐息には艶が含まれはじめ。

「ん・・・っ、んっ」

良い兆候。

「伸・・・っ」

掠れた声を発すると同時に、俺は、俺の手を、彼自身へと伸ばした。

「−−−っひゃ・・・っ!っと、とぅま・・・っっ」

布の上から、するりと撫で上げる。
ここまでの愛撫で、彼のモノは既に硬くなりはじめていた。

「好きだ・・・伸・・・」

伸は、漢だが、乙女でもある。
信じさせるまでには、どそれなりの努力と時間を要したが、俺の気持ちを受け入れてからの彼は、
初心な少女のように、俺の言葉に反応するようになった。

閉じかけた脚の隙間が広がった。

そう、好き合っている者同士なら、徐々にこういうことになっていくものなのだと、彼だってわかって
いるのだ。

胸の尖りをいじりながら、ゆっくりと前を擦り、軽く揉む。

「ぁ・・・っ、やっ・・・!ぅ、んん・・・ふっ」

感じている。

なのに、恥ずかしさからか、唇を噛んだ。

健気だな・・・。

内股が、ぴくぴくと痙攣している。

これじゃ足りないだろう?

「伸・・・、俺に任せて?声、聴かせて?」

「っ・・・は・・・っ、ふっ、な、なに・・・っ?−−−っっ!」

俺は、両手を同時に動かした。
乳首にあった手を彼の口に持っていき、指を2本、銜えさせる。
これで彼は、俺の指を傷つけないために、歯を立てることすらできない。
それから、もう一方は、ウェストゴムの短パンの、更にその下の中へと、一気に潜り込ませた。
彼の先端からは、もう、潤滑剤が滲みだしていて、俺はすぐにそれを塗りたくるようにして、
ペニスを扱きはじめた。

「は・・・っ、かはっ・・・、んが・・・ぁ、ぁ、あふっ・・・んぁっ」

彼の手が俺のTシャツの袖を引っ張った。
苦しいに違いないだろうが、にゅるにゅるとした棒は硬く、俺の掌の中で、ぐんぐんと力を
増していく。

もっと・・・、もっと気持ちよくなりたいだろう?

「声・・・聴かせて?我慢しない、って、約束する?」

頷きに合わせ、生理的な涙が一粒、眼尻から、つ、と落ちた。

彼の下肢を露わにした。
伸は、自ら、膝に絡んだそれを蹴り落とした。
ぬらぬらと照り光り、力強く勃ち上がる肉の塊。
彼は後ろからでもわかるほどに、羞恥に、そして興奮に、上気している。

「・・・っは・・・っ!はっ、ふ・・・ぅ・・・はっ」

伸の息遣いは忙しない。
そして俺も、気づけば、はぁーはぁーと、情欲にまみれた呼吸を繰り返していた。

変態ちっくだな。

少し笑えた。

「我慢、しなくていいからな・・・」

もう一度念を押す。
彼の気恥ずかしさを少しでも軽くしてやりたい。
それに、そうしなければ、俺の望む、俺の聴きたい声も聴くことができない。

「んっ、んっ」

俺の手を待ち望んでいる彼。
俺は、伸の指を掴み、Tシャツの上から彼の乳首に触れさせた。

「やっ」

と、口では言いつつも、身体は正直だ。
自らそこを、少しずつ、カリカリといじり出した。

彼には才能がある。
やらしい才能だ。

「ぁ、ぁ、は・・・ぁんっ」

俺の肩に頭をもたせ掛け、喘いでいる。

ああっ、なんて可愛いんだ!

蜜を垂らして揺れている先端を、人差し指でくるんと撫でてやる。

「ひゃあぁあんっっ」

曲げた脚は、全開だ。

「次、どうしたらいい?」

「ぁ・・・、さ・・・、触って・・・っ、前、を・・・擦って!」

「おっけー。ここなら、誰にも聴こえない。安心していい」

「んっ、んんっはぁ・・・っ、ぁ、あああっっ!」

右手で棒を掴み、上下動を開始した。
そして、天辺を左の指3本でグリグリと捏ねた。

「やぁあああっっ、先・・・っぽ、やっ・・・ぁああっっ、ああんっ、ぁふぅうんっ」

ぐちゅぐちゅと粘り気のある水音と嬌声が、普段は静かで陰鬱なこの書庫を別の世界に
塗り替えていく。

これだ。
これが、俺の求めていた音だ。
なんて気持ちがいいんだ・・・!

「いい・・・っか?」
「ぅんっ、んんっ、いい・・・!はっ、きもち・・・ぃいっ!よ・・・、ぁあっ、あっ、あぅうっ、んやぁあっ」

いつの間にか、たくし上げられたTシャツ。
彼は直に、胸を荒々しく弄り擦り、片手を後ろに回し俺の髪を掴んできた。

「はぁっ、はぁっ、はっ、ふ、も、もっと、もっとしご・・・扱いて・・・っ、しごいてぇ!」

思った以上に貪欲な彼に驚いた。

これは期待以上だ。
いい、すごくいい!

俺は、自身も破裂しそうなほど勃起していることに気が付いた。
彼にも伝わっているだろう。

「んぁあああっ、ぁうっ、いぅっ、らめっ、も、も、ぃ、いいんっ、はふっ、ふぅんっ、んあっ」

袋をぎゅむぎゅむ揉みしだきつつ、彼の希望通りに、扱くスピードを上げた。

「伸っ、伸・・・!」

「ふああああああっ!すごっ、いっ、い、ぃいっ、いいっ、いい!ぃ、や、や、あ・・・っ」

後ろから突き上げるように、リズムをとる。

「ああっ、も、だ、めっ、い、イク・・・っイク、イクっ・・・、イぃーっ・・・っクぅーーーーーうんんんぁあああああっ!!!」

「し・・・ん・・・っっ!!ぃいいっ!ぅうううーーーっ、あ、はぁはぁ、はぁ・・・」

「ぁあんっ、ああっ、はぁんっ、はぁはぁはぁ・・・と・・・ま・・・」

なんてこった・・・。

やっちまった。
まさか俺までイっちまうことになろうとは・・・。
まあ、どうせ後でオカズにさせてもらおうと思ってたから、ベッドの下に替えは用意してあるが。

・・・・・・・・・まいったな。


「ヨかった?」
「え?」

不意を突かれた。
その台詞は俺が言うつもりだった。

しかも、彼の息はもう整っている。
とても楽しげなトーンだ。

窓枠に置いてあるティッシュ箱を取り、自分が放ったものを拭き終えた彼は、先ほど落とした
下着とズボンを、ひょいと足で救い上げた。
丸まったティッシュはゴミ箱へシュートし、アレは君が責任を持って片づけるように、と俺へと
命令を下す。

そうしてくるりと向きを変えて俺に向き合うと、にっこりと笑った。

そして、突如、俺の履いていたものを一気に抜き去った。
俺は無様に転がった。

「おわぁっ!!」

「あーあー、グッショグショ〜」

今度は俺が真っ赤になる番だ。

で、

「ふふふっ、んー、これはこれは・・・なんとも・・・ふん・・・、かっわいいねぇ〜」

言うと彼は、へたった俺のムスコを指で弾き、恐ろしい程の笑みを俺へ投げつけると・・・、


パクリ


それを口にした!


ジーザス!



END


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