彼は僕の前に跪き、恭しく言った。
「好きだ、付き合ってくれ」
僕は思った。
何言ってんだ、こいつ。
僕のマンションの、寝室での出来事だった。
あの戦いの最中、僕らは・・・、僕と当麻は何度も抱き合った。
そこには、好きだの嫌いだのなんて気持ちはこれっぽちもなくて、
とにかく鬱屈としたドロドロしたものを吐き出したかっただけだった。
その後も、体の関係を続けたのは、ただの惰性。
身に染み付いていしまった快感を得るために過ぎない。
少なくとも、僕はずっとそう思ってきた。
いつ、彼がそんな感情を持ってしまったのか、ちっとも気付かなかった。
あー面倒くさい。
ベッドに腰掛けた僕は、跪いた彼に握られた指先を眺めた。
なんだこれ。
視線を上げると、目が合った。
どうやら冗談ではないらしい。
さて困った。
別に振っても構わないだろう。
それですっぱり縁を切って。
新たに人生を歩むのだ。
こんな先のない関係じゃなくて、ちゃんと女の子と付き合ってもいい。
じゃなくて、別のセフレを見つけるのだって、ありだ。
「そう・・・」
そうだ。
そうしよう。
いつまでも過去を引きずっているのは良くないに違いない。
これは、いい機会なんだ。
チャンスをくれたこいつに感謝しなくちゃいけないのかも。
そうだ。
「そうだ・・・ね」
ん?
『ね』?
あれ?
これじゃ、意味、違くない?
「ほ・・・本当か・・・っ?」
「え、いや、あの、ウソ・・・じゃ、な・・・い・・・」
いやっ!
ウソだろ?!
なんだ?!
どうしたっ、僕の口っ!
「はぁあああ・・・っ、・・・よかった〜・・・っ」
握られたままの手と、僕の膝に、彼の頭の重みが加わった。
うーん・・・。
まいったなーぁ。
どうしたもんだろうこの展開・・・。
ああでも・・・、確かに。
また新たに知らない人間と1から関係を構築するのは面倒臭いし・・・。
この男、手放すには惜しい気も・・・
・・・する、かも、な。
END
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