「はぁっ、はぁっ、ぁ・・・あっ、も、だめっ・・・!ぃ、入れて・・・っ!」

熱い熱い息と、上がる嬌声と共に彼が懇願した。
目元に朱が滲んでいる。


こんなに効くものとは・・・。



―――遡ること1週間―――



「伸てさー」

から始まった会話が切欠だった。

「何?」

事が済んだ後、俺たちはまだベッドの中でもぞもぞしていた。

「伸て、あんま声出さないよな」

「へっ?」

柔らかな髪から一粒、汗の雫を落としながら、間の抜けた顔で彼が振り向いた。

俺は常々思っていた。
俺と伸が、そういうことをするようになって随分経っていた。
互いに、相手の弱いところ悦ぶところを知り尽くしている、と言ってもいいだろう。

なのに、だ。

彼はいつも、今でも、何故か声を出そうとしない。必死で堪えようとしている。
イク時ですら、ギリギリまで抑えてる。

まー、それはそれで、そそられるのだが・・・。

「なんでだ?」

答えは、至極簡単だった。

「・・・そりゃ・・・、恥ずかしい んだよ・・・っ」

驚いた。

あーんなとこや、こーんなとこまで、体の隅から隅まで見せ合っているのに、いまさら『恥ずかしい』だって?!

「マジで?」

伸曰く、初めにそうしてしまったため、なんとなく、機を逸したまま、ここまできてしまったのだそうだ。

「なんつーの?切欠?みたいのがあればねぇー」

カラカラ笑って、シャワーしにベッドを下り、寝室から出て行った彼を見送り俺は思った。

はーん・・・
じゃあ、それがあれば、乗り越えられるのか?
とはいえ・・・まぁ、どうせ、言い訳みたいなもんなんだろうな。

と。


だが―――



そして、今夜

「はいよ、切欠」

「は?」

俺の下で、さてこれから事に及ぼうというその瞬間、その大きな目をパチクリさせた。

「どうよ?試してみる?」

めっちゃ、訝しげな視線。

「やっぱやめとく?」

俺は畳みかける。

「怖い?嫌?」

「いいよ。やってみようじゃないか」

彼は俺を知り尽くしているが、逆もまた然りなのだ。
ある状況下においては。

腹の中で、上がった口角は、まぁたぶん彼にも丸見えだろう。
彼は、その挑戦的で煽情的な瞳を隠そうともしない。

俺の手のひらには、トロリとした淡いピンク色の液体の入った瓶が握られている。

「それ?ふーん・・・てことは、今日のシーツは、このままお払い箱だね」
「・・・、あのな、今この段階で、それを言うか。ムード台無し」
「『ムード』って・・・、ぷっ、君が言う?」
「緊張する?」
「まさか!」
「ふんじゃ、いっきますよぉ〜」
「ぅ、うん・・・――― っ!ひゃっ、つめ・・・てっ、・・・んんっぅ」

怒り出さないうちに、俺は彼の口を塞いだ。

ゆっくりと、舌を絡める。
垂らした液体を薄く体に塗りこめ、首筋を舐める。

甘ったるい匂い。
二人して、鼻の頭に皺が寄った。

が、その途端、手がカッと熱くなった。

「んっ・・・!?は・・・っ」

俺の下の身体も、ビクリと跳ねた。

俺は液体を追加し、さらに彼の後ろへも、指と一緒に抽入した。


くちゅくちゅという、耳なれた音も、まるで違って聞こえる。

「はぁっ、ぁあっ・・・つっ、あつ、いっ!はぁっ、はっはっ・・・やっ、うぅっんんっっ」

額に浮き出た汗玉が、つるりと滑って、生え際の奥へと吸い込まれた。
繰り返されるその現象のせいで、彼の髪の毛は、全体が湿り気を帯びている。
それは、薄桃色に艶めく肌にも同じで。
照り光る体。
一際色濃くぷっくりと立ち上がった乳首に歯を立てた。
突然の痛みに、高い悲鳴があがる。
その声にひとまずの満足を覚えた俺は、今度は紅い実を優しく口に含んだ。
唇で摘まみ、舌先で舐り転がすと、声は短い喘ぎに変わった。

「あっ、あっ、あぁっ、と・・・まっ、ぁ、ぃいんっ、ぃあ・・・っ、はぁっ、いいっ」

いつもより格段に早く、彼の腰が揺れ始めた。

「あ・あぁ・・・っ、も、やっ、 ・・・堪らない・・・っ!欲しいっ、とぉまっ、ちょうだい・・・っ!」

腹に着くほどに張り詰めた先端からは、たらたらと透明の汁が溢れている。
俺の指だけでこの状態。

感動だ。

あの伸が。
すごいな・・・この“切欠”・・・

「ど、して・・・っ、『欲しい』?」

普段なら絶対に口に出さない台詞を聞ける、貴重な機会だ。逃すものか。

「はぁっ、はぁっ、ぁ・・・あっ、も、だめっ・・・!ぃ、入れて・・・っ、入れて!」

ぅっを!二度も言った・・・!

俺は自身を彼の孔にあてがった。
彼が期待にぶるりと震える。

息を整え、ぐぐぅっと彼のナカに俺を押し入れた。

―――っぁあああああーーーっっ

それだけで、彼は達した。

だが

「はっ、はっ、はっ、・・・・・・んんっ、っ、だめ・・・、ま・・・まだ、あつ、い・・・っ」

よかった。
これで、冷めてしまったら、俺は置き去りだ。

「じゃあ、動くぞ?」

うん・・・んっ、んっ、き・・・てっ」

彼の中は、確かに熱かった。
いつもよりも熱く、トロトロで。

思わず同時に呟いた。

「「っはぁああ・・・気持ち、いい・・・・・・っ」」

律動は滑らかで、俺たちは上になり下になり、後ろから前から横から絡み合い、とどまることなく交わった。

もっと、もっと!と、強請る彼に、俺は異論なく応え続けた。

一番人気と謳われている効力に偽りはなく、こいつは、伸だけでなく、俺をも酔わせた。
瓶の中身は、半分以下に減っていた。

伸の発するあからさまなその啼き声は、予想していた以上に、期待していた以上に、俺を奮い立たせるものだった。
もちろん、例の液体による作用もあるのだろうが、それによって導き出された耳からの刺激のほうも、間違いなく俺のオスとしての本能に影響を及ぼしていた。

彼が俺の動きに合わせて喘ぎ、俺の名を連呼する。

ああ・・・っ!なんて耳に心地良い。

この声をあげさせているのが自分であることが嬉しくて仕方ない。
今までこれを聞けていなかったことを、心底残念に思った。
一週間前までの俺は、どうしてコレを使うことを思いつかなかったのだろうかと、不思議なくらいだった。



そうしてその晩・・・・・・


いったい二人して何度イったことやら・・・


「は・・・っ、はっ、ぁ、ぁ、あ、ぁぃ・・・くぅっ・・・はっ・・・あっん―――ぅっっ」

うっすい、ほぼ透明になった精液を放出して果てた俺たちの周りには、数え切れないほどのティッシュが散らばっていた。

驚くべきこの商品!
作った奴を褒めてやりたい。

毎度使うには体力がもたないほどだ。

気付けば、カーテンの隙間から差し込む明かりが、床に白い筋を描いていた。


「おはよう、だな・・・」

「・・・ぅう゛う゛っ・・・ぁ゛んだら゛ぁ゛・・・」

あれほど艶やかだった彼の声も、さすがにカッスカス。

苦笑した俺に、ぐったりと突っ伏した顔を上げた彼の恨みがましい視線が注がれた。

「悪かった、って、言ったほうがいいか?」

けど、俺だって実は喉が痛い。
それに、腰も痛い。

・・・でもまぁ、喉も腰も、伸のほうがもっと辛いんだろうが・・・。

こんなにヤリまくったのは、本当に久しぶりだった。
クッタクタだが、大満足だ。

と、唸り声を漏らしつつ、彼が片腕を伸ばし、俺の首後ろを掴むようにして引き寄せた。
俺の耳に、彼の唇が触れる。


・・・りぃぐりずばず、だろぉっ、ばが・・・っ



END


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