「いやー、まさかこんな続くとはねー」

「ほんまやなー」


こうして明けましておめでとうを言い合うのは、今年で何年目だろうか。
続く決まり文句は

「じゃ・・・」
「まぁ・・・」

「「とりあえず、今年もよろしく」」

だ。

『とりあえず』
『今年も』

ここが二人にとっては重要。

法的拘束のない関係だから、とか、そんなことは関係ない。
いや・・・、あるのかもしれないけれど。

でも彼等は、あえてそれは使わないのだ。

“ずっと”

とか、

“永遠に”

とか。

使わないのは、今となっては逆に、二人にとっては、おまじないのような
ものなのかもしれない。

が、

いかんせん始まりが始まりだったから、というのもある。

当麻が、何度目かの、何十回目か・・・何百回目かの、の告白をした時、
根負けした伸は苦し紛れにこう言った。つい、言ってしまった。

『じゃ、じゃあ・・・、とりあえず年末まで・・・』

と。

ちなみに満を持して、当麻がその数百回目の告白を敢行したのは、
無理くり相手の予定を押さえたクリスマスのことだった。

おいおい、それってたったの数日じゃねぇか。

そう、その通り。
伸はわかっていて、あえてそう答えた。

たった数日で何ができるもんではなし、させるつもりもなし。
勝手放題に振り回してやったら、さすがに諦めるだろ。

だがしかし、この伸の意地悪ともとれる返答に対し、当麻はめげなかった。
むしろ、好機とばかりに、陰でほくそ笑んだのを伸は知らない。

新年か・・・

ニヤリ

そしてやってきた年末。
この日も当麻は、伸を実家に帰さず、自分と過ごさせることに成功した。

一緒に年越しそばを食べ、深夜までくだらないTVを観て笑う。
そうして、除夜の鐘を聴く。

と、ここまできたら、必然的に・・・

「「あけましておめでとう」」(ぺこり)

で、続きは決まって

「「今年もどうぞよろし・・・く・・・」」

ここまできて、伸は漸く自分のクリスマスの失言に気付いた。

「−−−っっ!」(しまったーっっ)

当麻は、テーブルの下で、拳を握った。

「・・・・・・ふっ」(してやったり)

伸はうっかり『今年も』当麻に『よろしく』してしまい、当麻は、ちゃっかり
伸に『今年も』、『よろしく』して、『よろしく』された。

わけで。

「・・・わかったよ、仕方ない。“とりあえず、今年は”、っつーことでだからな」

「えーえー、そりゃもちろん、それで結構でございますとも。・・・ぃっひっひ」

「やめろ・・・その悪代官笑い」

「あ、いや、そらえろぉすんまへん」

新年早々大きく溜息を吐くことにはなったものの、それでも当時の伸は、
この当麻との関係が、それほどに長く続くものだとは、これっぽっちも
思っていなかった。
一方、当麻自身も、実は、さほどに期待していなかった。自分自身に。
いざ欲しいものが手に入ってしまってからの飽きっぽさを、誰よりも自分が
知っていたから。

ところがどっこい、二人の生活は一向に破たんすることなく、驚くべきことに、
今現在まで続いている。

何がどう、という理由はないが、気付けばそれが当たり前になっていて。
手放すなんて考えられず。

で、結局、

『とりあえず』

『今年も』

『どうぞよろしく』

な、二人なのだ。



END

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