風に


夜更けになって風が強まってきた。

建て付けが悪いわけではないマンションの窓ですら、震えている。
唸り、吼えるその様が、目を閉じていても見えるような気がした。


と、傍らの気配が、僅かに動いた。


もう数え切れないほどにこんな夜を過ごしたにもかかわらず、いまだに俺は、
泣きたくなることがある。

奇跡のようなこの俺たちの年月に、築き上げてきた二人の関係に、
感謝せずにいられなくなるのだ。

理不尽極まりない無茶苦茶な青春時代を共に過ごし、今はまた、こうして
ゆったりとした時間を共有していることに、こうしていられることに。

昔、二人で暮らすと仲間に伝えたとき、彼らは、納得し、応援の言葉をかけてくればしたが、
決して内心いい顔をしていなかった。

その理由はよくわかる。

あの経験をした俺たちが、これから先も、ずっと一緒でいることが、
プラスに働くとは限らないからだ。

むしろ逆だと思えたのは当然のことで。

互いの顔を見れば、“あれ”を思い出さざるを得ない。
自分達に課せられた運命を。

だが俺は、そして彼も、そんなことは百も承知で、決心した。

とはいえ、俺はともかく、彼にとっては、それこそ天地をひっくり返すほどの決意を
もっての事だったに違いない。


脳裏に甦る。


彼が、俺の目を見て、頷いたあの瞬間が。


胸が締め付けられる。


また、強風が窓を打った。


「ん・・・・・・っ、っるさ・・・、・・・どうにかしろよ・・・」

背中を向けたまま、彼がボヤく。

自分の顔の綻びを抑えられない。

「どうにかしたら、もっかいシてくれる?」
彼の肩に触れ、耳元に囁く。

シーツの擦れる音。
彼の足先が、俺の踝(くるぶし)を甘く撫でる。

「さんざシたくせに、まだ足んないわけ?」

「知ってるだろ、俺は、年中発情期なの。伸の前では」
「ふぅん・・・、もうそんな元気ないと思ってた」
「ははっ、ヒドイな」


外では咆哮が轟き続けている。


「で?これ、ほんとにどうにかしてくれるわけ?」
「ご要望にはお応えしますが、先払いでお願いします」
「図々しいな・・・」

「で?どうする?」


体が密着し、彼の脚が絡んできた。


「では・・・、仰せのままに・・・」


彼が再び目覚める頃には、この風はとうに過ぎているだろう。




END


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