「あだっ」
「ぁ、ごめん」

「こらっ、動くなって」
「ん、すまん」


つくづく思う。


こいつを選んで良かった・・・

と。


例えば、コレ。


“耳カスほじり”ひとつとってもそう。


夕食後のリビングで、俺がひとり、耳をほじほじしていたら・・・


「なに?かゆいの?見てあげようか?」


これよ!
これなんよ、これっ!


他の奴じゃ、こうはいかない。

先ずからして、横目でチラと見てスルーが関の山だ。
そしてもし、仮に、万が一の確立で、みてやろうか?となったら、
それはそれで恐ろしいことこの上ない。


例えば、征士。

そもそも、なんとなく、『そこになおれ!』と言われているような
気分になるところから始まるのも、イマイチいただけないうえに・・・
『痛い』などと言おうものなら、『貴様が動くから悪いのだ!』と、
頭ごなしに叱られそう。
間違いない。

そう、あいつでは、決してこんな風には和めない・・・・・・。


その点、秀なら、和むことはできそうだ。

なんせあいつは、盛り沢山な兄弟姉妹の頂点に立つ男、長兄だ。
弟妹たちを楽しませる術は、心得ている。
だが・・・、そこが問題でもある。
ヤツは、笑わせたがりだ。
何に於いても、笑わせられれば、万事OK!ノープロブレム!
結果は二の次。
危険だ・・・
耳をほじっている最中に、アホなおやじギャグをとばされたり、
くすぐられでもしたら・・・!
もちろん、怪我をさせるようなことはしまいが、これではいつまで経っても、
当初の目的である“耳かき”、耳の中をスッキリさせることはできそうにない。
残念。

じゃあ、遼は・・・・・・?

あいつは・・・
俺に負けず劣らず
不器用だ。
そもそも耳かきを耳の穴に入れることすら、できるかどうか。
あやしい。
昔、伸の手伝いで、針に糸を通そうとしたが上手くいかず、例によって例の如く、
ヒステリーを起こし危うくテーブルを叩き割りそうになったことがある。
テーブルならいいが、頭を叩き割られたらたまらない。

と、まあ・・・
そんなこんなで、

こんな小さなことひとつとっても、伸はあいつらよりも頭ひとつどころか、
みっつもよっつもぬきんでているのだ。


そしてもうひとつ!
これはかなり重要だ。

・・・・・・そう・・・・・・

あいつらの膝は、間違いなく、固い!
あいつらは、鍛えすぎだ。

ところが、伸は違う。
もちろん、伸だって立派な日本男児だ。
筋肉がないわけじゃない。
だが、彼の場合、なんかもっとこう・・・・・・

うむ・・・
ほど良い
のだ。

しかも!

この膝枕は、俺の、肩〜首〜頭にかけてのラインにジャストフィットときたもんだ!

そう・・・、まるで、しつらえたみたいに・・・・・・


ふふ・・・っ
フフフフフフ


ゴチっ!

「あでっ!ッテ、あにす」
「あのな、いつも言ってるだろ、耳ほじってる最中に、突然笑うなって。危ないし、キモいッ」
「えっ?俺、今、笑ってた??」

「・・・・・・・・・グフグブ、フガフガ言ってたよ・・・」
「あー、幸せ噛み締めてたからなー」

「いや・・・、会話かみ合ってないし、言ってる意味、全然わかんないから」
「じゃ、続き、よろしくぅ」

「・・・・・・・・・・・・」

伸は何かを言いかけたが、それをグっと飲み込んで、鼻から出した。
そうして、ひっそり笑いを零し、俺の頭を膝に乗せ、また黙々と耳掃除を再開した。


わかってるさ。


“僕はどうしてこんなのと一緒にいるんだろう?”


喉元まで出かけた台詞はこれだろう?

でも

答えはとうに出ているから、あえて口に出すのもバカバカしい、
って、そういうことなんだろ?


お前はさ、

こういう俺を、

こういう俺だからこそ、

好きなのだ。


ふ・・・っ
フフフフフフフフフフフフ 




END


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