「なーなーなー」

トーンの妙に高い、やけに浮かれた声。
ヤツがこの声を発するとき、その話の内容は大概ロクなものではない。

「な、に?」

それでも、律儀にこう聞き返してしまう自分の性分の悲しさよ。

見やると予想通り、彼の顔も、声と同じ兆候を示していた。

「なー、伸」

「だから何」

「俺の、必殺技覚えてる?」

「・・・・・・・・・」

「だよなー、覚えてないわきゃーないよなー」

ヤツは、僕の眉間の皺を見てみぬフリをする天才だ。

「だねぇ」

「あれさー、すっげー、いいネーミングだと思わん?」

「・・・なに、その、すっごい、いまさらな・・・。全然意味わかんないだけど?」

「ふ・・・っ、ふふふふふふー」

「当麻、キモすぎ・・・引く」

「まーまーまー、ね、これ見て〜!したら、ゼッタイ納得だからっ」

ヤツが僕の目の前にかざした紙には、こう書かれていた。


“伸、食う、ハーーーっ!”


何故僕は、長年こんなノと付き合ってられるんだろう・・・



END


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