「ほぉおおお〜、なるほどな〜」
TVに向かって一人頷いている男が隣にいる。
僕は知らんふりを決め込み、雑誌のページを繰った。
実は先ほどからチラチラと窺うような視線を感じているのだが、こういう場合には、
とにかく無視することが肝心。
と、これまでの経験から学んだ僕である。
彼はいわゆる天才だ。
勉学においては、分野毎の専門家でなければ太刀打ちできないほどの、ド天才。
もしかしたら、専門家ですら敵わない分野だってあるかもしれない。
そんなド天才君が、『なるほどな〜』などと感心すること。
それは、逆に、一般人にとってはごくごく当たり前の、それこそ常識的、且つ、
非常に他愛もないことであることが多い。
いや、それどころか、大概、ロクでもないのだ。
残念ながら。
今、彼が観ているのは、再放送だ。
内容は、日本の文化がいかにCoolであるかを紹介する番組。
僕もたまに観るが、なかなか面白いと思う。
ちなみに今日のテーマは、
『オノマトペ』
だ。
つまり、日本特有の表現である、「モチモチ」とか、「ぷにょぷにょ」とか、「チクチク」
とかの、擬音のこと。
で、では、この『オノマトペ』に相方は、どうしてそんなに感心し、そしていったい何を
想像したのか?
・・・それは、考えなくても、なんとな〜く、わかる。
わかりたくないのに、わかる。
わかるようになってしまった。
と、僕の脳みその奥から警告の声が聞こえてきた。
早くこの場所から立ち去ったほうがいいんじゃないか?
と。
でも、僕はそうしなかった。
ここから先の展開がわかっているのに、そうしなかった。
そうして、彼が「へー」だの、「ほー」だのを連発しているうちに番組は終了した。
でもって終わった途端、彼は、僕を押し倒してきた。
ソファが、きゅ・・・っ、と軽い軋み音をあげた。
ほーらな、やっぱり・・・。
読んでた雑誌は床の上。
「随分感心して観てたね」
「おう!いやぁ、ほんま、『オノマトペ』ってエライなぁ、思って」
「へー・・・どのへんが?」
「俺の今の・・・、や、さっきから感じてるこの感覚も、考えてみたら、『オノマトペ』が
いっちゃんピッタリくんねん!」
「ふーん、なるほど」
「んん?」
「ん?」
「・・・おっ?おおっ?もしかして、伸、お前、わかっとんのやな?」
「まぁ、ね」
「おおおっ、さっすがぁ!・・・んで?じゃあ、それは、なんやと?」
つかね、僕を跨いで、上から覗き込むその面を診れば、答えは書いてあるってーの!
ド真ん中にね・・・。
「ムラムラ」
「だいっ、せぇ〜〜〜かぁ〜〜〜いっっ!」
このソファ、狭いんだよな・・・。
今度、もちょっと大きいの買おうかな。
こいつのロクでもないことに付き合うために・・・、さ。
END
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