納豆発言で思い出した。
7年に渡る遠恋の末に染み付いてしまった、僕の“パブロフの犬”に。
この状況は、非常にヤバイんじゃないか、と。
朝、目覚めると、いるわけだ。毎日。
毎晩、帰ると、いるわけだ。毎日。
休みの日は、一日中、いるわけだ。当麻が!!!
たとえ視界に入らなくても、ここにいる限り、同じ空間に、いつもいつも、
彼を感じることになる、わけだ!
ひーーーーーーっっ
大丈夫かな・・・。
いや、ずっと一緒にいたら、そうそうそんなずっと発情してるわけがない。
それに、いつかは慣れて、それこそ、同じ空気を吸うことすら嫌になる、
それが恋人ってもんじゃないか?
じゃ、ない・・・、よね・・・。
でも、今ほどのドキドキはなくなって、きっともっと落ち着くであろうことは、
間違いない。
そう、それまでの辛抱だ。我慢、試練だ!
と、思って、頑張ろう・・・。
って、思ってる矢先から−−−!
「しぃ〜ん〜っ」
来たっ。
「さっきはゴメンなぁ〜?」
出たっ。
外人ばりの過剰なスキンシップ〜っっ。
さっきは、思いっ切り、拒否ったくせに!
・・・まぁ、しようがないけど・・・。
「あんな魅惑的な伸に、俺はなんてチキンなんだ!たかが納豆臭いだけで・・・!」
「いや・・・、納豆臭いのは、誰でも嫌だよ。僕も、悪かった」
「いや!伸は悪くない!いつまでも納豆を克服できない俺が弱いんだっ」
「や、弱いとか、そういう問題じゃない。僕だって、納豆食った直後の奴とキスは
できないよ」
「そ、そうなのか?そういうもんか?日本人なら大丈夫なんじゃないのか?」
「いや、ダメだね。完全OUTだ。よほどの臭いフェチとかない限りは無理じゃないかな」
「そっか・・・そうなのか・・・」
「だと、思うよ」
「そうか・・・」
そこで当麻は、僕から離れ、腕組みをして目を瞑った。
ちなみに今は、日曜日の午前11時半。
当麻突然の帰宅&辞職報告&仰天発言から約3時間が経過した。
僕は、あの後、しっかり残りの朝食を平らげ、しっかり歯を磨き、久しぶりに二人分の
片付けをして、ナイトモードで洗っておいた洗濯物を干し、ざっくり掃除をして、さて
何か飲みながらテレビでも、と、再びキッチンに立ったところだった。
思いもよらない当麻の台詞に舞い上がって酔っていた気分も、幾分落ち着きを取り戻し、
そして反芻していた。
「よしっ!」
「な、なにっ?」
「伸!頼みがあるっ」
今度はがっちりと方を掴まれた。
当麻の手は、大きいけれど、一本一本の指は細めで、とても繊細に見える。
けど、その力は、やっぱりアメリカンだ。
「頼み?」
「そうだ」
「何?」
「ランチも納豆を食べてくれ!」
「・・・」
あ、なんか今、すごぉ〜く、嫌な予感が湧き上がってきた・・・。
「当麻、あのね」
「言うな、伸」
ああ・・・、やっぱり聞かなくちゃ治まらないか。
「俺は、克服したい!いやっ、必ずや克服する!してみせるっ!」
もう、この先は耳にしたくない。
けど・・・ほんとはちょっと聞きたい。
「俺は、ありとあらゆる伸を食べたい!」
「たとえそれが・・・納豆臭い伸でも!」
「・・・わかった、ありがとう」
「と、その前に・・・、先ずは、さっきの臭いが消えたかチェックだーっ」
これで34なんて、ウソだ・・・。
たぶん、昼ごはんを食べる時間はなくなる。
僕は、彼の広い肩に担ぎ上げられながら、抵抗する素振りを見せつつ、ひっそり
笑みを浮かべた。
END
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