Go!【後編】

彼の会話は、あまりにも突然すぎることがある。

普段の学校での彼も、いつもこうなのだろうか?
他の奴等は付いて行けているのだろうか?
と、俺は度々思う。

「はいぃ?な?」

「“人が一人じゃできないこと”、ってなぁーんだ」

「え、えっ、人が?一人じゃ・・・って、え?」


(おいおいおいっ!今のこの状況と、その“なぞなぞ”ってやつ、まったく脈絡がないぞっっ)

「そ。うーん・・・、当麻は天才だからなー。じゃ、10秒以内、や、こんな簡単なやつだったら5秒だな5秒。はいっ、では答えをどーぞ!」
「『どーぞ!』って、おまっ、5!?へ?いやっ、そりゃ、ちょっ、まっ」
「4、3、2、」
「えええっ?!」
「1、・・・あ〜あ、ざーんねんっ。すっごいオーソドックスななぞなぞなんだけどなー。ま、そうか、当麻じゃ無理だったか」
「『残念』って、『俺じゃ無理』って、おいっ、失礼だな!なんなんだよっ、つか、いきなり過ぎるだろ!」
「でもほらー、何が起こるかわからないってのが人生ってやつだろ?」
「いやっ、それ飛びすぎだからっ」
「いやぁ、なんつーの?まー、ちょっと、聞きたくなってさー」
「はぁ?!」
「で、答えは?わかった?」
「わかるかっ!あのなっ、伸、お前は、天才というものを買い被りすぎている!俺だってな、普通の人間なんだよっ」

(あー・・・我ながら、なんて苦しい言い逃れ・・・)

「ふーん・・・なぁんだ。じゃ、ま、仕方ないかー」
「『なぁんだ』ってなんだっ、そのうえ『仕方ない』って!失礼な単語連発すぎだっつーの!なら、答えはなんなんだよっ」
「はぁ?!何言ってんだよっ、そんなの!僕が答えたんじゃ全然面白くないじゃないか」
「おもしろ・・・って、はぁああっ?!」
「知ってる?こういうのはさ、考えてる時間が重要なんだって。えーっとなんだっけ?あーそうそう、AHA体験ってやつ」
「それはもちろん知ってる。が、そーじゃなくてっ、答え、気になるだろがっ」
「ふっふっふ〜、気になれ気になれ〜」
「ぅがぁあああああっっ!だからなんなんだよそれ〜っ」

(俺は完全に彼に振り回されている。遊ばれている・・・。俺は彼のオモチャなのか・・・?それはそれで美味しい・・・って、違う違うっ、俺!あー・・・ぶんぶんに振り回されて、目眩がする〜)

だが、ここまで馬鹿にされて、引き下がったり投げたしたりするわけにはいかない!
他の奴ならともかく、相手は伸だ。
きっと何か、意図するところがあるに違いないのだ。

悔しい俺は必死こいて考えた。
これまでにないほど必死に、だ。
稀代の大天才と誉れ高い俺が、だ。

彼は楽しそうに、俺を見つめている。
その視線を意識しないように感じつつ脳みそフル回転で。


“一人じゃできないこと”
“一人じゃできないこと”
“一人じゃできないこと”

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そして10分後。

俺は、漸くひとつの可能性に行き着いた。
ところが、それを口に出そうとした瞬間、驚きのあまり、ひっくり返りそうになった。

(ほっ、本当にコレを言っていいのか?!マジで?!そういうことでいいのか?!伸っ!)

この突然のなぞなぞは、

『一人じゃできないことは、なーんだ?』

で。

で、

数ヶ月前彼は、確かこう言った。

『じゃあ、僕一人じゃどうしようもないことは、お願いするよ』

と。

なら・・・

ならば今俺は、それをお願いされている、と解釈していいのだろうか?
だとしたら、俺がここで言うべき答えは・・・!

(あ、あ、あ、あ、アレ、しか、ない、よ・・・な・・・?)

もしかしてもしかしてもしかして!
あれほどに俺が欲しがっていた切欠は、この伸が投げ掛けたなぞなぞってことなのか?!


だが、それでも、崖から飛び降りるほどの決心がいることに変わりはない。
口を開けたら、言葉が出てくるより先に、心臓が飛び出てしまいそうだ。

(だが俺よ!今言わずして、いつ言うんだっ、しっかりしろっ!)

「な・・・っ、なあっ―――ゲホッゴホッガハッ」

(ああっカッコわりぃ〜っ、チクショーっ、心臓が喉に引っかかった!)

「ん〜、何?答がわかった?」

(ああそうだ、今だ!引くな!行け!言え!言うんだ俺ーーーっ!Go!Go!Go!)

気分は、敵地に上陸する海兵隊員。

「おっ、俺、俺たち・・・っ」

「ほー、なるほど。で?『俺たち』、が、なに?」

「おおおおおお俺たち、つつつつつつつつ付き合わないかっ?」

(よっしゃーーーーーーーっっ!!!やった俺!よくぞ言った!)

胸の内で激しく両手を突き上げた俺だった。

が、

「ふぅ〜〜〜っ」

あろうことか伸は、がっくりと頭を胸に落とし、盛大な溜息をついた。
?!
(えええええええっ?!『ふぅ〜』?『ふぅ〜』って何だ『ふぅ〜』って!これが、さっきのなぞなぞの答じゃなかったってのか?!だとしたら、めっちゃ恥ずかしいじゃねーかよっっひーーーっ)

「ぃやぁ〜、ほんっと、随分、めっちゃ、えらい、すんごい、かかったよねぇ〜」

(ひ?なんですと?)

頭の中が真っ白になった俺の前で、彼はお得意の、小首を傾げるポーズを決め、ニコリと笑った。
そして、その口角の上がった口元から出てきた次の台詞は・・・

「それ、いつ言ってくれるんのかなーって、思ってたんだよねー」

「は・・・、はあああっ?」

「いやさー、僕的には、初めから、かなりわかりやすく信号を出してきてたと思うんだけどなぁ。ぜんぜん、ちっとも気付かなかった?・・・みたいだね・・・」

(わかるかーーーっ!なら、何故、どうして、お前のほうから言わないんだっ!)

酸欠金魚と化している俺の大ツッコミは、音にならなかった。
しかし、そこは伸だ。
俺の心を読んだのか、それとも単に王様(いや、彼の場合、王子様か?)気質なだけなのか・・・、奴は更に、こうのたまった。

「僕って、自分から言うより、言わせたいタイプなんだ」

(なんじゃそりゃぁあああっ!小首を傾げて笑うなーっ、小首を傾げてっニコーっと!)

以下、暫くは、俺の心の叫び&独りトークである。

じゃあ、何か?
俺が伸のサインを見落とし続けていた、ってことなのか!
そういうことなのか!?

ああ・・・そうだ・・・その通りだ・・・。

冷静に考えてみたら、彼は、めっちゃアプローチしてきていた。
あれをアプローチと言わずして何と言う!ほどの積極さだった。
と、言えよう。

そうだ、・・・よな。
だって、いくら命の恩人とはいえ、普通、初対面であそこまで親切にしてくれるもんか?
何とも思ってない奴に、わざわざ弁当なんて作ってくるか?
合鍵なんか渡すか?
自分の弱いところなんかチラ見せするか?
誕生祝にここまでのことをしてくれるか?

いいや。
好きな奴が相手じゃなかったら、どんなにお人好しでも、あそこまではやらないだろう。

思い返せば、彼の想いは、そこら中に落っこちてた!
いやいやいや、『落っこちてた』んじゃなくて、彼が投げかけてきた幾つものボールを、俺が、ことごとく無視して『落っことして』きたのだ。

冷静に・・・、どころか、普通だったら、とうに彼の気持ちに気づいていて当たり前なのに。

あーーーっっ、とんだ馬鹿な天才めーーーっっ!

彼をわかっているつもりでいい気になって、恋する自分に浮かれて、自分の気持ちばかりに目が行って、一番重要で大事なところが見えてなかった。
見ようとすらしていなかった。
俺ばっかりが彼を好きで、まさか、伸のほうも俺を好きになるなんて、そんなの、夢に見るばっかで、追いかけるばっかで、現実にそんなことが起こり得るとは、思ってもいなかったんだ・・・。

嗚呼・・・っ、なんて節穴な俺っ!
馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿〜〜〜っっ!!!


そう、彼のこの突然のなぞなぞ、これも彼なりの信号なわけで。


答えは、


“恋愛”


だ。


“恋愛は、一人じゃできない”


それが、答だったのだ。



「あーあー当麻、そんな落ち込むなって。いいって別に。君はそういう奴だってわかっててやってたんだから」

「いや、だが、しかし、いくらなんでも・・・っ」

「けどまー確かに、この僕がここまでやって、告ってこなかったら、流石に次はどうしたらいいか、悩むとこだったよ」

(うんうん、そうだな、そうだよな・・・、こんな俺をよく見限らないでいてくれたものだよな・・・)

「にしても、いやーほんと・・・、君って、オモロ可愛いよねーっ」

(ああ〜っもぉうっ、そう言うお前が、キラキラしすぎっ!・・・しかしやっぱ伸て、実は相当変わってるよな・・・なんせ初めから俺のことを好き、ってところからしてキワモノ好きっていうか・・・)

ていうか・・・
つか・・・
あれっ?

んん?

待てよ。待て待て待て!

それってそれってそれって・・・!

あの伸が、そんなに俺にアプローチし続けてたって、ことは、ことは・・・だ、

もしかして、伸は、この俺のことを、めっちゃ好き、ってことなのかーーーーーっ?!?!


ええええええええええええええええっっ!!!
きゃーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!


「あ・・・、当麻、鼻血・・・はいよ」

ティッシュを手渡してくる伸。
口ではキツイことばっか言うくせに、根はほんとに優しい。
こういうところがまた、俺の心臓を鷲掴みにする。


「ふ・・・ふまん、さんく・・・」

「で?」

「ふが?・・・『で?』とは?」


改めて見れば、俺を見つめる彼から色香が漂っているように感じて、俺の頭は益々クラクラ・・・ん?

(いやいや、ここで応えるのは伸、お前のほうだろう!ここまでお膳立てしてもらったとはいえ、情けないながらも、まがりなりにも、一応は、俺のほうから告ったんだからっ)

音にならない脳内高速ツッコミとは裏腹に、ぽかんと鼻を押さえる俺に対し伸は・・・

「あ〜・・・、で、だから、ね?君は、僕に、どういう風に応えて欲しい?ってことなんだけど?」

「そんな、どうって・・・そりゃ・・・」

(先ずは『いいよ』で、次は『僕も君が好きだよ』なんかが、普通だろ?それにだって、お前のその目を見たら、答えはもう聞かなくたって、さすがの俺でも・・・、だから俺は・・・)

「それで?その『そりゃ』の続きは?なんなわけ?」

「そ・・・、」

気付けば、彼の肘が俺の肩に乗っている。
気付けば、俺が好きな彼の顔は、すぐ目の前まで迫っている。

「ん?」

そして煌めく彼の瞳にはマヌケな俺が映ってるのが見えて。

「−−−っっ!」

(うぉおおおっ・・・危ない危ない!)

俺はまた、伸をがっかりさせるような、アンポンタンなことを口走るとこだった。

彼は今、何を望んでいるのか、このシチュをしっかり俯瞰して見てみろ!と、俺の中のどこかが警告してくれた。

(いやしかしまっ
たくこいつは、まどろっこしい奴だ!そのうえ、とんだエロ天邪鬼王子ときたもんだっ!でもでもでもっ、そういうところが、また堪らんのよね〜っくぅうううーーーっっ)

「そ、そう・・・だな」

「『だな』・・・?」

(言え!俺!言うんだ!ここまで来てこれを言わなきゃ男じゃない!ただのヘタレだっ!今度こそ、ビシーっと決めてやれっ!こいつをメロンメロンにしてやるんだ!おーーーーーっ!)

「俺は・・・」

「『俺は』?」

「俺は、・・・言葉じゃ、なくて」

「『じゃ、なくて』?」


「行動で、示して欲しいタイプだ」


「・・・はい、よくできました」


本当は、ずっと目を開けていたかったが、それじゃ、きっとまた伸に怒られる。

ほのかな甘い香りがさらに近づいてくるのを感じつつ、俺は唇に全神経を集中させた。




END

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はいっ!というわけで、19194キリ番の小梅様リクエスト『はも。のUPした当麻のはぴば絵(ちゅー)にぴったりな内容の話』でございました。キリリクって何度トライしても見事に玉砕で、心苦しいばかりですが、書くほうはお蔭様で非常に楽しかったです★
小梅様、ありがとうございましたーーーっっvvv