待ち合わせ
俺、羽柴当麻の、今現在のマイブームは、『待ち合わせ』だ。
数年の歳月をかけて、よぉ〜〜〜やくっ口説き落とした恋人との
『待ち合わせ』。
『待ち合わせ』の何が?と言われればそれは、俺を待つ恋人の姿を見ることが、醍醐味なのである。
俺の恋人は、非常に時間にうるさい。
―――というか、全般的に大変几帳面な性格だ。
なのでもちろん、『待ち合わせ』においても、遅刻は決して許されない。
叱られたり、くどくど嫌味を言われる。
・・・というのもある、が!
それよりも、何が嬉しくて惚れぬいた恋人との貴重な逢瀬の時間を自ら短くすることがあろうか!
そういう意味においても、自分自身、遅刻は許せない。
そゆことで、恋人が俺を待つ姿を見るために、俺は先ず、恋人が待ち合わせ場所に来るよりも、さらに早い時間に現場近くへ到着し、やや離れたところにて待機している。
そして、来る(きたる)彼を監視・・・もとい、観察する態勢に入るのだ。
“彼”・・・そう、俺の恋人は、“彼”だ。
あれは、まさに、運命の出会いだった・・・。
(中略)
というわけで、その無茶苦茶可愛い小悪魔ちゃんは、やっと、ようやっと、俺を受け入れてくれたのだった。
それがかれこれ1年前のこと。
で、話を元に戻そう。
ゆくゆくは同居を目論んでいる俺ではあるが、今はまだその段階ではない。
なので、現段では、若者らしくデートを楽しむ、これが当初の目的だった。
しかし、今は違う。
『待ち合わせること』そのものが目的となっている。
もちろん、デートも楽しみだ。
しかし、現在その比重は、前者のほうが重い。
では、順を追って、その味わい方を解説しよう。
彼は必ず、時間より約10〜15分前には現場へ到着する。
にもかかわらず、いつも少し急ぎ足でその場へやって来る。
そして、一応辺りをきょろきょろ見回して、俺の所在を確認する。
ここで既に、俺の胸はキュンキュンだ。
俺が先に来てる、なんてことがあろうはずはないことは、わかっているくせに、なのに、あえて、探すところが絶妙にカワユイ!
だが、この先も、また堪らない。
彼は、なんと!
ちょっとばかし、“ちぇっ”という顔をするのだ。
そんな表情、俺がその場にいたら絶対に!観ることはできない。
めっちゃ貴重!
アッチのほうまでギュンギュンくる!
・・・失礼。
そして彼は、時計を見る。
で、“ま、仕方ないか”という表情になり、本を読んだり、携帯をチェックしたりして待ち時間を過ごす。
その立ち姿は、まるで役者が映画かドラマを撮影しているかのようで、何人もの女&男共が振り返るほどだ。
ちなみにその間の俺は、(どや!めっちゃ別嬪やろ!だがなっ、そいつは俺の恋人ちゃんやっ!羨ましいやろ〜っ)という思いと、(あにを、人の恋人舐めるように見とんじゃっ、汚ねぇ視線飛ばしてんじゃねぇよっ、おらぁーっ!)という気持ちが交互にやってきている状態になる。
だが実際、そんな彼は、ナンパおよび逆ナンされることもしばしばなのだ。
まったくもって困ったもんである。
そういう時俺は、さりげなく彼の元に馳せ参じることにしている。
決して、「うがぁーーーっ、てっめぇ、人の恋人ナンパしてんじゃねぇよっ!!ボケぇっ!」などと、怒鳴り込んだり殴り込んだりしてはいけない。
そんなことをしようものなら、後々俺が途轍もなく恐ろしい目に遭うことになる。
なのでこの場合、スマート&クールに、「よぉ、待たせたな」や「よっ、早いな」程度の軽めなノリで登場するのが好ましい。
もしも相手が「じゃあ、そちらさんもご一緒にぃ〜」等、アホ全開でしつこい場合、これから小難しい学会やセミナーに参加するのだと言えば、大概は引き下がる。
邪険に追っ払ってやりたいのは山々だが、ここで揉めると、これまた後が非常に厄介なことになるので、極力平和に穏便に事を収めるのが肝要なのである。
さて、こういったバカで余計で面倒な邪魔が入らなければ、俺はギリギリまで恋人観察を続ける。
ひとつ補足しておこくと、ちなみに、待ち合わせ場所は、毎度同じというわけではない。
公園とか並木道、カフェにしてみたり、博物館・美術館前、繁華街のデパート前や混雑する駅前・改札前にしてみたり。
そのほうが、いろんなシチュの彼を見ることができるから。
彼は結構こだわり屋で、TPOを大事にする。
なお、俺の一番のお気に入りは、並木道での待ち合わせだ。
特に秋冬がよい。
鼻の頭をほんのちょっぴり赤くして、かじかんだ指先を息で暖めている姿など、眩暈がするほど、悶絶もんにカワイイ!
そらもう可愛くて可愛くて可愛くって、むほぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ
ハァハァハァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
と、まー、それは置いといて。
俺は、彼が立ちそう(もしくは座りそう)な位置を読み、相手からは見えづらく、こちらからはよく見える場所を探し出し、そこに潜んでいる。
まるでストーカーだが、これはただの恋人との待ち合わせなので問題はない。
と、思っている。
また、なるべく自然に振舞い、周りに怪しまれないようにすることも大切だ。
そうして眺めていると、まれに、俺に似た声の奴がいるのか、彼が反応することがある。
いや、これがまたカウンターパンチの如くに俺のハートにヒットするったらない。
彼はチラリと声のしたほうを見る。
で、その主が俺でないとわかると・・・、少しばかり、恥らうのだ。
もう一度繰り返そう。
ちょいとばかし、“恥らう”のだ!!!
なんやそれーーーーーっっ、そらお前、卑怯やろがぁ〜〜〜〜〜っっ!
俺はその場で転がってジタジタしたいのを、必死で堪えなければならない。
一度など、我慢しすぎて、鼻血を出して、誤魔化すのにものくそ苦労した。
俺は、約束の時間の5〜3分前には、彼の前に現れることにしている。
5分遅れまでは、彼がキレることはないが、よりよいデートを楽しみたいなら、先にも記述したが、遅刻は厳禁だ。
さてその際、俺がひとつ心がけているのは、“真正面からは行かない”という点である。
何故なら、振り向き様の彼を見たいから。
あのフワッフワの髪の毛をゆるくなびかせて、俺を見上げる瞬間は、毎度、いつも、何度見ても、まるで夢の中にいるみたいに感じる。
少女漫画の如く、キラキラ星が彼の周りを飛んでいるのだ。
嘘じゃない!
本当はその時点で、彼をギゥギゥしたい!
それどころか、その場で押し倒・・・
が、それも我慢我慢。
爽やかに、且つ、やや申し訳なさそうに、「待たせて悪い」と言う。
そうすると彼は、「別に・・・そんな待ってないよ」と返す。
はぁあああ?!?!『待ってない』だぁ???
なぁに言っとんねんっ、コノコノコノォーーーっっ!
待ってた、く・せ・に・っ!
んもぉおおお〜っっ、かぁーわぁーいーいーーーっっ!
ホンマ、何度俺をマットに沈めたら気が済むんやーーーっっ、コノヤロ〜っ!
俺がベッドに沈め・・・失敬・・・。
って感じ?
長い年月をかけ、苦労に苦労を重ねた(あまり苦には感じてなかったような気もするが・・・)甲斐があるってもんだ!と、心から骨の髄まで実感するひと時。
知らず涙が零れそうになることも少なくない。
以上、彼が現れるところから、俺の登場までのわずか15分ほどの時間、それが、今の俺の最大の楽しみであり、至福の時だ。
どうかな?
この、俺の『待ち合わせ萌』、ご理解いただけただろうか?
あ、そうだ!
今度は趣向を変えて、俺が先に待っててみよう。
そうしたら、彼はいったいどんなリアクションをするだろうか。
ムフっ
ムフフフフフフっ
あかーーーんっ!
ニヤけてまう〜〜〜っっ
あ・・・鼻血・・・
END
★オマケ★
目次にモドル
リビングにモドル