恋愛報告書

【後編】




ガチャガチャ、ばあーーーーーーん!!!




「伸っっ!」
「・・・っ!当麻っっ!」




ダダダダダダっ


ドカっ!!


「あっっ・・・でぇーーーーーーっっ!!!ぬぉ〜〜〜〜〜〜っっ」




おや?



あれ?



はて?






この、コメディ映画のワンシーンのような目の前の展開はいったい・・・





「もおっ、来んの遅いんだよっ、このドアホっ」
「あがっ、んぐぐっ・・・、こっ、これでも超特急で来たんだぞっ」
「ぶぅ〜っっ」
「あ〜っ、ずんまぜんでじだぁっ、申し訳ないっ!だからっ・・・うぐっ、そう、ムクれなさんなって。せっかくの別嬪が、台無しだろぉ」
「別嬪とか言うなっ」
「ぅごあっ」




なんだ・・・これは・・・

おいっ、おいおいおいっ
しかも、このシチュ、どう見ても俺たちの想像と真逆じゃね・・・?


「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」



「あぁ、そうだ、当麻」



当麻の胸倉を掴んでいた手を放し、伸は顎で俺たちを指し示した。



「げふっ・・・けんけんっ・・・おっ、よぉっ!久しぶりっ、元気だったか?お前ら」



それに対し当麻は、軽く咽せつつ、伸びてビロビロになったTシャツの襟ぐりを軽く叩くと、まるで何事もなかったかのように、笑顔全開で挨拶した。



元気だったか?って・・・



「あ、ああ、お蔭様でな・・・」

「ひっ、久しぶり・・・っ」
「おう、お前、も・・・元気、そう・・・だ、ょな・・・?」


「まぁな。元気は、元気だな。あは・・・あははははー・・・」

「元気過ぎて困るよ、ほんと」


「あ・・・あのっ、首、大丈夫か?」



「おっ、遼、優しーなぁ〜。お前、大人んなったなー。ヘーキヘーキ。なんともないさ。こんなの日常茶飯事だしな」



「大人・・・って、またそうやって遼を馬鹿にするような言い方して!」

「おわっっ」


「あっ、いいって、伸!大丈夫。俺、全然気にしてないからっっ、なっ??」



何、俺、当麻をフォローしてんだ???

てか、に・・・日常茶飯事???




「あ〜・・・ところで当麻よぉ」

「何故ここがわかった?」
「それに、どうやって入ってきたんだ?」


「あーん?そりゃ、お前、んなの、すぐにわかるさ。伸は今日、遼と出かけた。で、夕方、いったん帰ってきたようなのに、すぐまた出て行った。しかも鍵もかけずに。だが、本来なら伸がそんなことをするわけがない。てことは、イレギュラーなことがあっということだ。とすると、今日一日一緒だった遼も来ていたに違いない。遼が一緒だったのに、すぐ家を後にしたということは、あの玄関を見て、何かを勘違いして、伸をどこかに連れて行こうとしたのだろうと推察できる。しかも、遼が一人でそれを実行できるとは思えないから、きっと共謀者がいるのだろうこともわかる。とすれば、それはおそらく秀だ。ところが秀の家に電話をしても、秀はいなかった。しかも征士もいたのに二人して夕方から出かけたという。ということは、だ、三人はどこかで落ち合うことになっているんだろうと予測が付く。じゃあ、場所は?連れて行かれることが本意でない伸を軟禁するのに、飲み屋やホテルってこともないだろう。ならばその他に場所を提供してくれそうなのは誰だ?ナスティだ。で、彼女に連絡をとり事情を説明して、ここの合鍵を持っている人を紹介してもらい、借りて、飛んで来た。と、いうわけ。な?簡単だろ」



確かに俺たちの作戦は安直すぎたかもしれない。

相手は当麻だったのに。
いや、相手が当麻じゃ、地の果てまでも追っかけてくるだろうことは、俺たちにだって予想はできていた。
ただ、それがあまりにも早すぎたから驚いただけで。
に、しても、今の当麻の解説の中には、気になる言動が含まれていた。


“何かを勘違いして”?



あの状況で、いったい何を勘違いのしようがあると言うんだ。

浮気現場以外のなにものでもないはずだ。


「当麻が俺たちの企みに気付いて、且つここまで辿り着いた経緯はわかった。けど、俺たちの、どこが、何を、勘違いしてるっていうんだ?」



「何をって、そりゃぁ・・・」

「なぁ?」


二人は少し言いづらそうに顔を見合わせた。



「そうだぜ!」

「我々は、我々なりに、これまで貴様がしてきたことを踏まえ、熟考しての行動なのだぞ」


「いや、ま、それはそれですごくありがたいとも思うんだけど・・・」

「だが、お前らは、根本的に、俺たちのことを勘違いしてるっていうんだ」


確かに、さっきの二人の再会シーンからしてみると、彼等の関係性は、俺たちが考えていたのとは若干どころか、かなり違うように思える。

けれど、過去に起きた事例を照らしてみると、やっぱり、被害者は伸で、加害者は当麻なんだとしか思えない。


いったい、この二人はどうなってんだ??

よし!
ここは俺が、ズバっと、訊いてやるっ!


「伸は・・・っ、伸は、当麻に手篭めにされたんじゃないのか?」



「へ・・・?」

「なんだって!?・・・遼、お前よく、『手篭め』なんつー高等な言葉知ってたなぁー!」


「はぁ?」

「おいおいっ」
「当麻、今、食いつくところは、そこではない」



俺たちのツッコミに、伸が間に入り・・・



「あー・・・、あのね、ほんとはこんなこと言いたくないんだけどさ・・・実は・・・」




いよいよこの二人の真相が聞けるのだ。

俺たちは、ゴクリと喉を鳴らした。



「今だからぶっちゃけ言うけど・・・、僕達、お互いに一目惚れだったんだよね」





ひとめぼれ???


・・・米?




「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」





「「「えーーーと・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」」」




「だから!俺たち、一目惚れ同士だったんだよっ」



「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」」」



「だーかーらぁーっっ!」



「ああっ、もういいからっ、当麻は黙ってな。えっと、だから、あのね・・・」



二人は揃って、ソファに腰かけた。

そのお互い指は何気に、なんとも自然に絡んでいて。


俺は少しばかり複雑な気分を味わった。



まあ、それはさておき・・・。



ここからは、俺が報告しよう。



当麻と伸は、あの新宿で出会った瞬間に、お互いを運命の相手と感じた。

らしい。
ただ、だからといって、すぐに関係が発展したわけでない。そこそこの紆余曲折を経て、やっと想いを遂げたのは、柳生邸に移って暫くしてからだった。
そうだ。
けれどあの時の俺たちは戦いの真っ只中。
そんな折、さすがに開けっぴろげに、『僕達付き合うことにしましたー』などというわけにもいかず、とはいえ、お互いの気持ちが通じ合ったのだから、次のステップにもいきたいし、更に次のステップ、そしてそのまた次の・・・にも進みたい。
いくら戦いでヘトヘトでも、若い身体は正直だし、そうそう押さえが利くものでもない。
好きな人と一緒にいれば、反応するところは反応してしまう。
そこで、彼らは極力LOVE×LOVE度を表には出さないよう抑えつ控えつ、恋人関係を一歩一歩進めることにした。
んだと。
で、今現在においても、二人は順調にお付き合いを継続中で、とても幸せだ。
とさ。


以上。





じゃあ、あの当麻の部屋を取り替えさせたりした強引さや、征士と秀の忠告に対するふてぶてしい態度も、俺が書庫で見た伸の諦めた風な様子も、征士と秀の忠告に対する答えも、全部、ぜぇーーーんぶ!芝居だったってことか?!


そうか・・・、だから、俺たちから見ると、当麻が伸を振り回しているように感じたんだ。

しかもそれは、彼らの意図するところだったってのか!


なんだよっチクショー!



いや、待てよ・・・?

でも、そうは言ってもだ、あの戦いの間は、そうやって装っていなきゃなんなかったってのはわかる、だが、あれが終結した後のことは?
別に隠し続けたり、芝居を続ける必要なんて、なかったはずじゃないか?


この質問に、彼等は・・・



「どうせ俺たちがいくとこまでいってんのだってバレてるんだし、ここまできたら、改めて言う必要もないだろう」

「それにほら、やっぱり“改めて”なんて、恥ずかしくってさ〜」


と、やや頬を赤らめながら答えた。



だが、俺たちの疑問はそれでも治まらない。



「では、伸が、辛そうに私のところへ来たのは何だったのだ?」

「当麻が女の子といちゃついてたのは?」


「あれは、伸が当麻に、酷い仕打ちを受けていたからではないのか?」

「あれはどう見ても、浮気だろう?」


「「はあああ?」」



「俺、お前に暴力とかふったか?」

「いいや、ないね」
「浮気したと思うか?」
「ううん、してない。つか、できないだろ?」

「うん」



「んじゃっ、前に伸が、『もう疲れた。当麻に付き合ってたら体力が持たない』って電話で泣き言吐いたのはなんだったんだっ、あれは、当麻の我侭に振り回されて疲れきって、そんで掛けてきたんじゃねえのかっ?」



「んなこと言ったのかよ伸・・・」

「・・・あ〜、あの時ねー。ああ、ああ、言った言った。言ったわ。けどまあ、それは、ほら・・・、だって、当麻ってば野獣だから」
「え〜っ、そうかぁ?俺って、そんなに絶倫か?」
「ああ、アレの最中はまさにケダモノだね」
「おいっ」


おいおいおい・・・。

その会話を聞かされる俺たちのほうが、ツッコミたい。


「ちなみにさ、あの時の正確な僕の台詞は、『もう疲れちゃうんだよねー。当麻に付き合ってたら体力もたないよ〜』って、僕にしちゃ、すっごい惚気のつもりだったんだけど?」



「分かりずれぇよっっ」



「長いこと、コソコソやってたから、その時の癖で、アンニュイな感じがでちゃったのかもね、あはははは」



笑い事じゃないんですが??



「じゃあ!さっき、当麻が家に女を上げて『やだぁ〜、ちょっと、羽柴君てばどこ触ってんのよぉ、もお〜』だの、『何言ってるんだ〜、少しくらいいいじゃないか、ん?いいだろう?んん〜?な?な?』なんて、どっかの悪代官みたいな台詞で、キモイ会話してたのは何だよっ!浮気以外には考えられないじゃないかっ」



「女?キモイ会話?・・・ああ!あれかー!あははははーーーっ、はいはいはいっ、あれね!つか、俺のセリフやたら脚色されまっくてないか?・・・ま、いっか。でだ・・・、あれは、別に浮気でも何でもない。あの女は、俺の研究仲間だ。今新しいシステムを開発中で、触った触らないの話は、その中の構造の一部のこと。それに!もひとつ肝心なことを言わせて貰うとだな、俺は、まかり間違っても、あんな女相手に、おっ起たない!俺の脳と心とムスコが欲しがるのは、この世でただ一人!伸だけだ!」



「ちょっ・・・!もぉっっ、バッカ当麻っ!何、アホエっロいことバカデカイ声で偉そうにぶってんだよっっ」



伸は顔を真っ赤にして怒り、当麻の横腹に肘鉄を食らわせ、首を絞めあげた。



「いでっ、んぅっぐぐぐぐぐーーーっっ」



当麻の顔がみるみるうちに、赤紫色へと変色していく。

眼は早くも半白眼だ・・・。


「あわわわわっ、伸っ、やめろっ!わかったから、暴力はやめてくれっ、な?な?」



俺は、めちゃくちゃビビって、伸を止めた。



「むぅうううっ・・・しょうがないな。遼に免じて我慢する。当麻、遼に感謝しろよ」

「げふっごふっ・・・は、はい・・・。遼、ありがとうな」


「い、いや、別に礼を言われるようなことじゃ・・・」



伸て、ほんとはこんなに暴力的だったのか・・・。

俺は、たかだかこの約一時間弱の間で、彼の知られざる一面を目にして、若干退いた。
と同時に、こんな奴をあそこまで熱烈に無条件に愛せてる当麻ってスゴイ!と、ちょっとだけ、いや、かなりな尊敬の念が湧いた。


「最後に、もうひとつだけ確認させてくれ。では、伸が仙台に訪れた時の様子の原因は、なんだったのだ?」



「あー・・・ふんふんふん、こないだのねー・・・、あれはさ、大学が夏休みに入ってすぐ、海外の学会に招待されて当麻がいなくなっちゃって・・・」



「「「て?」」」



なんだかもうこの先は予想できすぎて聞きたくない気もするのだが・・・。

どうしても、先を促さずにいられないのは何故だろう・・・。


「当麻欠乏症になっちゃったんだよね。えへっ」




えへっ?




トーマケツボーショー?



当麻穴防省??



当麻血暴賞???



「「「・・・はい?・・・」」」



「いや、あの戦いの後もね、郷里に帰ってみて、何が辛いって、自分でもビックリだったんだけど、こいつがいないことがあんまりにも寂しくってさー、だからといって、さすがに萩に呼ぶわけにもいかないじゃないか?実家にはまだカミングアウトしてないし。それで、なんとか一人暮らしして、こいつを呼んだんだけど・・・。で、それからずぅーーーっと、一緒だろう?2週間も離れ離れになったことなんてなかったからさ、もう無茶苦茶寂しくって、辛くって、そんで、独りじゃとても耐えらんないと思って・・・」



「それで、私のところへ来たと?」



「うん」




「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」


なんだそれ・・・。

お前は本当に伸なのか?



だが、俺たちのこんな困惑は、どこ吹く風。

独りだけ、テンションの違う奴が・・・




「なんだよーーーっっ、伸っっ!!お前、やっぱ、めっちゃカワイすぎ〜っっ!なぁあああ〜っっっ、もぉダメだーーーっ、シンボーたまらんっっ、うをーーーーーーっっっ」



握り拳を頭上に突き上げ、そう雄叫びをあげたかと思うやいなや、当麻は目にも留まらぬ速さで横に座る伸に襲い掛かった。



「うわーーーっっ、もっ、ばかっ当麻っっ・・・んんんっ、やっ・・・も・・・あっ・・・ぁ、あぁっんっーーーんんんっんっ」





そして、おっぱじめた。





あのー・・・俺たち、まだ、ここにいるんですけど??




「まさにケダモノだな・・・」
「これ、伸を助けたほうがいいのかな・・・」
「助ける?・・・いや、いいんじゃね?ここまできたら合意だろ」


「そうだな。おそらくこれも奴等にとっては日常茶飯事のひとつにすぎんのだ」

「そっか、引き剥がしたら、逆に怒られるかもな・・・」
「なあ、もう帰らねぇか?こんなん見てても、人生の何の役にも立ちゃしねえ」


「「尤もだ。そうしよう」」



こうして、伸救出作戦は、何がなんだかわからないままではあるものの、大団円(??)を迎えた。

まぁ、伸が当麻と幸せに上手くやっているなら、最初から何も問題はなかったわけで・・・。
俺たちの心配は、まさに杞憂だったわけで・・・。





して、この後、彼等がどうなったか。



二人揃って、ナスティにしこたま起こられたという話を、秀伝手に聞いた。

それが何故か、などというのは、愚問中の愚問。
やっぱり場所はわきまえなくてはいけないということ、所謂、自業自得というやつだ。


だが不思議なことに、こんなことがあっても、あいつらのあんなことを知っても見ても、それでも俺たちの友情は変わらないという確信はいまだにある。

驚きだ。

伸のことは、あの笑顔はやっぱり好きだし、今回のことで、これまで思っていた以上に面白い奴だったんだ、という感想ももった。

当麻だって、ずっととっつきにくい印象を拭えないでいたのに、なんだか可愛いと思ったし、あの伸への盲目的な愛情は敬服に値すると思った。


たぶん、征士も秀も同じだ。




ただ、ひとつだけ、どうにもスッキリしなことがある。



俺の中に残ったこの疑問は、いつか解ける時がくるだろうか。




で、よりケダモノだったのは、いったいどっちだったんだ???






おわる


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目次にモドル

Topにモドル

と、いったわけで、4000のキリ番を踏んでくださいました、しおり様からのリク
“すでに相思相愛なんだけど、羽柴があんまり野獣なので、見るに見かねて毛利を守ろうとする3人の騎士たち”
でした★
・・・・・・・・・・・・・・・(吹き出す大量の汗汗汗)
えええ?!このリクに、これ?!?!と、皆さまお思いのことと存じます。
前作の『真剣勝負!』の勘違いにも劣らない履き違いっぷり全開の作品となってしまいました。。。なんででしょう・・・脳内では、萌まくったリクだったのですが。。。うーん
そして、書き直しをした意味は、全くなく・・・。ここまでハズしまくってしまって、もうお詫びの言葉もございません・・・っっ<(>0<)>しかも、あんなにシリアスに始まったのにこの終わりかよっ?!?!な展開ですし。
しおり様に限り、クレーム受け付けさせていただきます、はい・・・・・・<(_ _;)>大反省
でも、でも、ちょっとでも楽しんでいただけたのでしたら、幸いデスvvv