その先の行方
Prologue
顎で示された場所へ足を向けるのに、僅かばかりの時間を要した。
この場所で何が起こるか、いや、行われるかはわかっている。
色々な意味で、初めての事ではないからだ。
だからここへきて、急に尻込みをしたのではない。
覚悟はしている。覚悟を要するようなものでもないのかもしれない。
何より、逆らうわけにもいかないし、その理由も・・・、ないのだ。
それでも、湧き上がる言いようのないこの感覚は、そう簡単に拭えるものではなかった。
敵意はない。
憎んでいるか、と問われれば、そんなことはない、と即答する。
憎んでもいない。ましてや恨みもあろうはずがない。
彼はむしろ、感謝し、敬う存在なのだ。
彼は救世主だ。
この腐敗しきってしまった国を救った英雄。
新しい君主であり、元より正当な王。
そして、かの人の望みを叶え、最期を看取った男。
青年は、蝋燭の灯った部屋で、促されるままに身に纏う衣の紐に指を掛けた。
何処で掛け間違えてしまったのだろう。
そう思わずにはいられない。
もしかしたら、意識しないままに、自分自身がこうなることを欲していたのだろうか。
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