- 現代に現われた、お伽の国の王子様だと思った。
心臓を射抜かれるって、こういうことなんだと、身をもって知った。
頬は火照り、胸が高鳴るなんて・・・!
自分はソッチの人間じゃないと思っていたのに・・・。
彼は全てが規格外だ。
容姿も頭脳も、性格も。
ハリウッドのセクシー俳優だって、彼の前では霞んでしまう。
あいつらなんて、ちんくしゃで、ただの筋肉バカだ。
少なくとも僕の目にはそう映った。
どうしようっ!
ドキドキしすぎて、心臓を吐いてしまいそうだ・・・っ!
なーーーんて、思ったことは、口が裂けても言わない。
そんなこと言ってやんなくても、奴は既に、十二分に知っている。
出会った頃から今に至るまで、僕が彼にメロメロであることを。
癪だけど仕方ない。
さすがの僕をもってしても、この溢れ出る好き好きの念は抑え切れないんだから。
奴がたまに嫉妬してみせるのは、僕に言わせたいからだ。
どんだけ、まだ、僕が彼に惚れているかを。
それを口にするのは簡単だ。
いっくらだって出てくるし、たぶん、自制しなかったら永遠に止まらない。
あいつは僕が会社でモテまくっていることを心配しているけれど、僕から言わせて
もらえば、そんな僕の世界なんか小さい小さい!
例えグループ会社含めて何万人の社員がいようが、比較対象にもならない。
当麻の場合は、もっとワールワイドだ。
だからある意味、僕よりもっと性質が悪い。
一歩外に出ただけで、振り返らない人はいないのだから。
しかもそれは万国共通。それこそ揺り篭から墓場までな勢いで。
民族も、言語も、宗教も超える。
先ず、見た目からして、スーパーヘビー級(重さじゃなくて)にズバ抜けている。
日本人にあるまじき、身長と顔の小ささ、手足の長さ。
ソースでもケチャップでも醤油でもなく、で、ありながら、涼しげなアジアンテイストを
残していて。
ただその辺に立っているだけで、人目を引かずにいられない。
持て余し気味の手足を、無造作に動かすだけでも様になる。
パリコレモデルですら、彼と並ぶのを嫌がっていた。
あの煌く青みがかった双眸という宇宙に、何人の・・・いや何百人の人間が吸い
込まれたことか。
彼の破壊的なオーラに、眩暈を起こした人は数知れず。
年齢不詳な風貌も、ミステリアスな彼を引き立てている。
不抜けた顔は年寄りみたいでも、キリリとすれば壮年の戦士、笑えば無垢な子供。
とにかく、いくら見ていても飽きることがない。
そして、極めつけはその頭脳。
これまた世界レベルだ。
各界の天才と呼ばれる人々にとっても、彼の頭脳は垂涎モノで。
彼にもしものことがあったら、その脳みそは、世界の研究機関で奪い合いになる。
既にお声もかかっているらしい。
縁起でもない!
声は程よく低く響き、鼻も顎もすっとして、エロさ全開の口元はいつも薄く笑みを
浮かべて見え、難しい顔をしていても、タレた目尻が緩和する。
スマートなのに愛嬌がある。
超天才なのに、一般的知識は皆無。
五月蝿いのに甘ったれ。
ジジ臭いのに子供みたいで。
細くて長いのに、男らしい指。
元来不器用なくせに、ベッドの中でだけ(『だけ』じゃないけど)はやたら器用で。
くぅうううううっっ!
このギャップが堪らない!
なんなの、この180度感!
犯罪っしょ!
彼がフリーランスの仕事に就き、半ば引き篭もりの生活をしてくれていることで、
僕がどれほど安心していられるか。
この世の誰も、彼を目にしなければいい。
彼が目にするのは、僕だけならいいのに!
彼が触れられるのが、僕だけだったらいいのに!
「なー、わかってる?」
「あー?ああもちろん、わかってるさ」
「なら・・・」
「俺は、お前を楽しませるために生まれてきたんだって、な。俺の悦びがお前の悦びで、
俺が嬉しければ、お前も嬉しい、そうだろう?ん?」
だーっもおっ何?!
この超傲慢な台詞!
聞いた?!(誰にも聞かせないけど)
知ったかぶっちゃってさ!
これを、軽々僕をお姫様抱っこしながら言うんだから憎たらしいったら!
軽っ々と、だよっ!?
ホールケーキ運ぶのとかわらない力加減みたいに!
こんな細腕のどこにそんなパワーが備わってるんだか!
スゴくない?!
めっちゃ恰好良くないっ?!
羨ましいだろ〜っ!
「なんだ、わかってんじゃん」
そうして僕は、二人分の体重を受け止めたベッドの上で、彼の顔を引き寄せた。
END
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