王様ゲーム改め、女王様げぇむ
彼の行動はいつでも唐突だった。
彼が次に、いったい何をして、何を言うのか、どんな大天才にも、どんな最新のコンピューターにも予測は不可能だ。
そして、この時もそうだった。
「よぉしっ!王様ゲームだーーーっ!」
この鶴の一声で、飲み会の定番、というより本来は合コンの定番、『王様ゲーム』が開始された。
遡ること数時間、サムライトルーパーな彼ら&1名は、正義の肩書きもそっちのけの無礼講で飲み続けていた。
なぜそのような成り行きになったのかは、ここでは割愛させていただく。
しいて言うならば・・・、ストレス発散、とでも言っておこう。
人類誰しもが抱えているこの心的歪みに伴う苦痛であるが、彼らにはまた特異な・・・まぁ、理由なぞなんでもよい。
とにかく、しこたま呑んで呑んで呑みまくっていた。
しかしここで、気持ち悪くなって、場を盛り下げる奴など一人もいない。
そんなのはまだ明日のこと。
そして、明日のことを今考えるのは、この場合ご法度である。
と、いったわけで、この場にいる人間は、いい感じという以上に皆が皆、酔っ払っていた。
で、前述の言葉である。
え〜っっ?
と、思った者もいないわけではなかったが、異論は出なかった。
だって、提唱者は、“我らが烈火の遼様”だから。
くじは、黙って征士が作った。
「・・・ん!」
彼は、呑むといっそう寡黙になった。
会話は、ほとんどジェスチャー。首を縦に振るか横に振るかだけで足りた。
宴会開始からこれまでに彼から発せられた言葉は、「ん」と「ふん」のみだ。
さて、話は戻り、円の中心に差し出された割り箸くじを、適当に引いてゆく面々。
この場合、確立は平等なので、あえて箸を引く順番をじゃんけんで決めるなどという面倒なことは省く。
とはいえ、順番は決まってないようで決まってもいる。
「よぉーーーし!じゃあ、いくぜっっ」
言いだしっぺの彼は気合十分だ。
ちなみに彼が、いつどこで、このような合コンゲームを知りえたのかは、不明である。
「じゃあ次、いくわよっ!」
まぁ、紅一点なので、この順も妥当だ。
「おっし!んじゃ、次は、俺っちだな!とぉうりゃぁーーーっ」
こういうくだらない遊びでも全力で前向きな人というのは、非常に有難いものである。
秀麗黄、彼のような人物は、これからの人生においても、飲み会では引っ張りダコであろうことは想像に難い。
「ん!」
「は?俺?俺か?いや、俺は最後でいい。伸お前が先に引け」
「はぁ?どっちが先でも同じだろ?征士が引けって言ってんだから、引けばいいじゃないか」
「何言ってんだよ、“残り物には福がある”と昔から言うだろう。験担ぎだ、験担ぎ」
「ばっかじゃないの、意味わかんないよ。たかが王様ゲームでさ。そんなに王様になりたいわけ?随分と野心家な参謀だな、あー、怖い怖いっ」
「んだよ、いちいちうるせーなぁー」
「あんだってぇ〜?!」
天空の当麻と、水滸の伸、二人は、酒が入っていようが、いなかろうが、いつもこの調子である。
何かというと、小競り合いを繰り返している。
まぁ、おそらく根本的に性格があわないのだろうと、周りの連中も諦めてはいるのだが・・・。
「なんだ?お前ら、何揉めてんだ?」
「こういうのはスピードが大事なのよっ」
「はーやーくぅしろぉよ〜〜〜っっ」
「ふんっ!!!」
「あ、ごめんごめん征士。じゃ、僕が先に引かしてもらうね?」
「ん!」
と、いうわけで、残りの3本は、伸、征士、最後に当麻の順で引くこととなった。
なお、今更だが、『王様ゲーム』が分からない方は、誠に恐縮であるが、各位にてお調べいただきたい。とはいえ、ここから先の展開を追ってゆけば、必然とどういったものかは分かってゆくのではないかと思われる。
全員に箸が行き渡ったところで、一斉に自分たちの手の中にある割り箸の印を確認した。
そしてすかさず、トルーパー一のお調子モンが音頭を取る。
「よーし、じゃあ、いいかぁ?・・・せぇのぉ!」
「「「「「「王様、だーーーれだ!」」」」」」
「おーれ、だぁーーーーーっっ!!」
高々と王冠マークの描かれた箸を頭上に突き上げたのは、言いだしっぺである男だった。
やはり、トルーパーのリーダーは、腐っても彼なのである。
・・・いや、この表現では語弊があるので、訂正しよう。
やはり、彼は、いかなる場合においても、引きが強く、運強い。これが、トルーパーのリーダーたる所以であろう。
「・・・ぷっ、だぁれが、残り物には“何が”あるってぇ?ぷぷぷぷぷっ、あー可笑しっ」
「お前・・・、いつか、マジぶっコロス!」
「へぇ〜そりゃ楽しみだねぇ」
「そこ、いいかげんにしろよっ、せっかくオモロイことやってんのに、盛り下がるだろうがよっ」
「ふんっっ!」
「ほらみろ、怒られちまったじゃねぇかよ」
「はぁ?僕のせいじゃないよ。誰かさんが子供みたいなこと言ったからじゃないか」
「ぁんだとぉ〜?!」
「二人とも、いいかげんになさいっ」
「「はい、すみません・・・」」
「・・・あー、なぁ、俺、命令、だしてもいいか?」
「あっ、そうだったね。ごめんごめん」
「おーっ!いいぜっ、ばっちこいっっ」
「ん!」
「いいわよっ」
「・・・・・・・・・」
「よーーーーーしっ、じゃあ・・・、2番がぁ〜・・・、尻文字で、自分の名前を書く、だ!」
「ん・・・?んんんーーーっっ!?」
「「「「「えええええ?!?!」」」」」
言った本人まで驚いたのも当然かもしれない。
2番は、征士だった。
征士が、尻文字・・・。
一番似つかわしくない。
そう、そして、だからこそ、こういった場面では面白い。
「「「「ぃえーーーい!!!征士のケツ文字〜〜〜〜〜〜っっ」」」」
一同大爆笑である。
「よぉーし、じゃあ、早速いってみよぉ〜っっ」
「ふんっ」
何気に彼もやる気満々。仲間に背を向け、形のいい尻を突き出した。(注:服は着用している)
・・・酒の力は偉大だ。
「「「「“せいじ”の“せ”の字は、どー書くの!」」」」
「「「「こー書いて、こー書いて、こー書くのっっ」」」」
「「「「うひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ」」」」
全員ひっくり返って笑い転げまくり。
「やっだもぉ〜っっ」などと言いながらも、ナスティだって、がっつり観て、涙を流して笑っている。
ここまで大ウケすれば、やったほうもまんざらではない。
残りの二文字も、最後の“じ”の点々(濁点)に至るまで気合十分に、書ききった征士だった。
次に王様を引いたのも遼だった。
「なんか、俺ばっかりで悪いなー」と言いつつ、彼は嬉々として次の命令を下した。
普段、リーダーと言われながらも、何の指図をすることも出来ないどころか、逆に周り中からあーしろこーしろと言われることばかりの彼だ、そらもう嬉しいに決まっている。
王様は、何でも命令できるのだから。
「1番が、5番にデコピンだーーーっ!」
そういうわけで、秀が伸にデコピンとあいなった。
「おーーーし!覚悟しやがれ、伸っ!うりゃぁっっ」
形容しがたい音が響いた。
「んぎゃっっ、―――っっっっっっったぁーーーーーーい!!!」
伸はおでこを押さえ、もんどりうって痛がった。
「「「「おおおおおーーーっ」」」」
ここまで完璧なデコピンを観たことがあったろうか、いや、ない。
というほどのジャストヒットぶりに、他のメンバーは感心すると共に、日ごろナスティ以上に口煩く自分たちを管理しようとする彼に、胸の空く思いがしたのも事実であった。
「すっごぉーーーい!!あはははははっっ、いーたーそぉ〜っっあはははははっっ」
ナスティは、純粋に楽しんでいた。
ここで大笑いしたのが当麻であれば、速攻で翌日の食事抜きの刑が待っていたのだろうが、彼もその辺は心得ていたのだろう、顔を背けて零す程度の笑いで堪えきった。
伸としても、馬鹿笑いされた相手がナスティでは、何もやり返すことはできない。
ははははは・・・と、目尻から涙を滲ませつつ苦笑いするのが精一杯だった。
続いて王様を引いたのも遼だった。
どこまでも強運の持ち主である。
そして餌食となったのは、ナスティと秀。
彼らに課せられたのは、スイカ割り。
4番を引いた秀がスイカとなり、今回1番を引いたナスティが目隠しされて割る係。
他の4名で誘導し、新聞紙を巻いて作った即席の棒で、秀の頭を殴らせるというものだ。
これも、なかなかの盛り上がりを見せ、成功裏に終わった。
だが、こういった平和的罰ゲームのネタはそうそうあるわけはない。
ここから先は、いまいちとなってしまった。
3回まわってワン、腕立てに腹筋、ときて、再びスイカ割り、デコピン、そしてまたスイカ割りデコピンと、とうとうネタが尽きてきたのである。
漂う空気もどことなくまったりとしてきてしまった。
ちなみに、ここまで王様を引き当てたのは、遼ただ一人。なんと確立100%。
引く順番を変えても、何故か王冠マーク付割り箸を手にするのは彼だった。
ネタがなくなってくるのも仕方ないと言えよう。
ちなみに、3回まわってワンまでは、まだよかった。
やらされたのが、当麻だったため(?)、結構皆楽しめたのだ。
だがしかし、腕立てが征士、腹筋が秀では、いまいち盛り上がれないどころか、ちっとも面白くない。
10回、20回では、軽々とこなしてしまう彼らだし、だからといって回数を増やしても、数えるのが面倒だ。
当初そこそこの盛り上がりを見せたスイカ割りとデコピンも、そうそう続けば人間飽きてくるものである。
王様を引き続けるのが遼一人であることも、この停滞感をよりいっそう深めていた。
「つまんないわねっ!」
ここにきて、まんまストレートな感想を躊躇なく漏らしたのは、紅一点だった。
「次は、絶対に私が王様を引くわっっ!」
そして、こう明言した。
ここまで自信満々に言うからには、彼女には、再びこの場を盛り返す秘策があるということだ。
ナスティ・柳生。
現在のこの家の持ち主であり、一般のうら若き女性ながらも、トルーパーである彼らと共に行動し、彼らを励まし、また時に足を引っ張ってくれる貴重な存在。
彼女が戦いに巻き込まれたのには何か理由あってのことだろうが、もしかしたらそれは、今夜のこのゲームのためかもしれない。
―――んなこたぁないのだが・・・。
果たして彼女の予言(?)は、そのとおりとなった。
『王様だーれだ?』のコールの後、す・・・っ、と上がったのは彼女の手だった。
そしてその白い手には、王者の証である王冠印付箸が握られていた。
「「「「「おおおおおーーーっっっ!!!」」」」」
「うわぁ!すごいな、ナスティ!」
「うへ〜!マジで引いちまったぜ!」
「さすがだよねー」
「んん〜!」
「まさかとは思ったが・・・」
「じゃ、そういうことで、早速いかせてもらうわね!」
「「「「「えええええーーーっっっ!?!?」」」」」
王ナスティの命令に、一同の酔いは一気に冷めた。
彼女が下した指令、それは・・・!
「3番と6番で、ポッキーゲームよっ!」
“ポッキーゲーム”
説明しよう、これも言われてみれば飲み会ゲームの定番中の定番である。
ただ、遼が言うことは先ずないだろうと思われる類のものだ。
ちょっと大人なゲームだから。
指名された者に課せられるのは、ポッキーに代表される細長いスナック菓子を両端から互いに食べ進めて行くという、いたって単純な作業である。しかし、このゲームには気をつけなければいけないことがある。それは、早い段階でその食材を折らないこと。一口二口で折れた場合、周りの空気は澱むどころか、怒気に包まれるだろう。どんなに嫌な相手とやることになっても、極力ギリギリまで引っ張ることが肝心だ。いや、この場合、周りが期待するのは、明らかに“チュー”なのである。一方が突き進んで向かいの者の唇を奪ってもいい。とにかく、普段なかなか見ることのない他人の“チュー”と、意外な者同士が“チュー”することで、盛り上がる、そういうゲームなのだ。
説明が長くなってしまったが、では、さて、今しがたナスティがコールした3番と6番はいったい誰なのか。
それが現在の彼らの関心の的だ。
「3番、6番は誰?誰なのっっ」
この物言いは、王様というよりは女王様である。
そして、不思議なことに『拒否なんかしたら許さないわよ!』という、影の声までもが聞こえてきた。
ノロノロと上がった手の持ち主達。
嫌々感、渋々感、超満載である。
「「「げ・・・っ」」」
選ばれしその哀れな二人を見たナスティ以外の残り3人は、同時に固まった。
さもありなん!
よりによってこのゲームをやることになってしまった可哀想な二人とは・・・
智将、天空の当麻
と
信将、水滸の伸
それぞれの鎧の能力が示すとおり、空と海、決して交わることのない性質を持った二人だった。
この二人は、性格・生活パターンが真逆なことはもちろん、方や破天荒な天才型、型や努力の秀才型で、とにかく、かぶるところが全くない。
とは言うものの、その割には、口の減らないところはそっくりときたもんだ。
互いが互いを見下しあっている、とは、他の面々が彼らを見ていての感想だ。
同じトルーパーであるにもかかわらず、常日頃から衝突が耐えないのも致し方ないと思えるほどの、典型的天敵、犬猿の仲なのである。
しかし、今この状況で、そのことを持ち出しても、何の効力も発揮しない。
むしろこういった場合、そういう二人であるほうが、面白い。
それがこの“ポッキーゲーム”の特徴でもある。
「あらっ!あなたたちなのねっ、あはははははっ、ちょーどヨカッタじゃなーい!うふふふふふふ〜」
いったい何が丁度良いのか、そんなことはどうでもよい。
「うわーーーっ!当麻と伸でポッキーゲームかぁ!」
「ひょーーーっ、すげーな、ナスティ!よりによってこの二人なんてよーーーっ!なっ?」
「ふむ・・・っ」
お陰で、場は再び盛り上がりをみせ始めた。
この空気の中、“哀れな二人”に抵抗する余地などあろうはずがない。
「さっ、もたもたしてないで、早く始めてちょうだいっ!秀、準備はいい?」
「ぃえっさー!準備万端でありますっっ」
この二人、こんな時ばかりは息ぴったりである。
「じゃあ、当麻はこっち、伸はこっちからな、ほれっ」
「「う゛〜〜〜っっ」」
半ベソな二名が、両端を咥えた。
「うわぁーうわぁーうわぁーーーっ、近いなーーーっっ」
「んむっ」
上記の二人は齧り付きの見物人と化している。
そんな大注目の中、いよいよゲームは
スタートした。
ポクっ・・・
カシカシカシ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「「「?????」」」」
「ちょっとちょっとちょっとぉ〜〜〜〜〜っっ、なんなのよ、あなたたちぃーーー!」
「おいおいおい〜〜〜〜〜〜〜っっ、なんなんだよ、お前らーーー!」
「えっ、これで終わりなのか?もっと進むもんじゃないのか?」
「ふんっ」
「甘いわよっ!そんなんじゃ面白くないわっ」
「おうよっ、それで許されると思うなよ」
「まだまだいけるぞ、なっ?」
「うむっ!」
容赦のない言葉が飛び交う。
当麻も伸も明らかにムっときていた。
しかし、ポッキーを咥えたままの彼らは反論もできない。
「しようがないわねっ、そんなに嫌なら、目をつぶってもいいわよ」
「そうそう!俺たちがあとどんぐらいか教えてやっからよっ」
「がんばれっ、当麻、伸!」
「ん!」
仕方なく、二人は目を閉じ、仲間を信じることにした。
ポクっ、ポクポクポク・・・
「おーおー、よしっ、いーぞ当麻、まだだ、まだいけっぞ!」
カシュ、カシュカシュカシュ・・・
「伸も頑張れっ負けんな!」
―――はて?
このゲームに勝ち負けなどあっただろうか?
より多く食ったほうが勝ち、とか?
それに、・・・ポッキーって、そんなに長かったけか?
当麻と伸は、同じことを考えた。
その瞬間―――
ふにゅっ
??????
あ・・・・・・
開けた両目のその真正面に、ありえないほどの近さで、日ごろいがみ合う相手の瞳があった。
「「――――――――っっっっ!!!!!!!!」」
ポキっ
ここで漸く細長かったスナック菓子が折れた。
同時に、二人して口を掌で覆い、転がるように互いから離れた。
「きゃーーーっっ、やっだぁ〜二人とも〜んっっ」
ちなみにこの場合『やっだぁ〜』も、決して『嫌だ』の『やだ』ではない。
むしろ『やったー!』に近く、非常に喜んでいる内を表してる。
「うえ〜っ、こいつら、マジちゅーしやがったーっっ、ぎゃははははははっっ」
「うわはっ、すげーっっ!」
「むむっ」
外野はもう大はしゃぎだ。
一方、当の二人はというと、実はそれどころではなかった。
((なんだなんだなんだーーーーーーーっっ?!?!?!))
彼らは混乱していた。
こうなることもある程度予想しないでもなかったのに、唇が触れ合った瞬間、予想以上に驚いた。
そのうえ、予想以上に驚いてしまった自分にも驚いていた。
身体の距離は離れたものの、絡み合った視線を解くことができない。
いつもの憎まれ口も出てこない。
耳が熱くて火を噴きそうだった。
そんな彼らが正気に戻ったのは、秀の一言だった。
「よっしゃーっ!!ほんじゃ、盛り上がってきたところで、次いってみよー、次っ!」
で、次である。
Kingを引き当てたのは、その秀だった。
この席において彼は、どこまでも女王様の僕(しもべ)、長いものに巻かれる男だった。
「んじゃっ、続けてのパクリとなりまして非常に恐縮でございますが〜、再びのぉ・・・、ポッキ〜ゲェ〜イム!!いえーーーい!1番と5番でなっ」
結果、1番は征士、5番は、またもや伸。
「えーーーっ」と、あげた非難の声は、ナスティのひと睨みで掻き消えた。
結局伸は、この後、何故かナスティを除く全員とポッキー齧りをやる羽目になった。
ようするに、仲間全員と“ちゅー”したのである。
なお、誠に不思議なことに、その間、一度たりとも盛り下がることはなかった。
いや、正確には、いまいち盛り上がりきれない者が約2名いたのだが。
「もぉっっ!次、また誰かがポッキーゲームっつったら、実家に帰らしてもらうからなっ!」
一巡したところで、一人罰ゲームと化している伸はそうのたまった。
どこの嫁だ?的台詞なところは、全員が心の中でツッコミつつ声に出すことはなかった。
そしてこの一言がまた、彼の悲運を招くことになるとは、誰も思いもしなかったに違いない。
ナスティ以外は。
「はいはいはい、じゃあ、仕方ねぇから、次からは、ポッキー禁止なー」
で、またもや腹に一物ありなQueenの登場だ。
「じゃ、あ〜・・・、」
ゴクリっ
固唾を呑んで続く言葉を待つ5人の戦士。
「2番と3番で、ベロチュウ〜〜〜っっ!!!きゃーーーーーっっ」
「いよぉっっ、でましたぁ!王道命令、第二だーーーんっっ!ぱふぱふぱふぅ〜っっ」
秀の太鼓持ちは、この頃から既に社会人並みであった。
なお、2番と3番は、いわずもがなな期待通り(ここの読者限定)の二人。
伸は、自分からああ言ってしまった手前、これも嫌だとは言えなかった。
確かに、ポッキーゲームではないから。
当麻はというと、実は先ほどから、何か妙にムシャクシャしていた。
“先ほどから”というのは、伸が他のメンバーとポッキーゲームをしている最中のことである。
別に彼のことをどう思っているとか、そんなことはなかったのに、伸が他の連中とも唇を触れ合わせるの見ていたら、どうにも胃の辺りがムカムカしてきてしまったのだ。
フワリと当たったあの思いもよらないほどに甘く柔らかな感触が何度も蘇る。
その都度、他の奴らも俺と同じように感じているのだろうか、とか、伸は、他の奴らと俺との違いを感じているのだろうか、とか、そんなことを考えてしまって、そんなことを考えてしまっている自分が不可思議でならず、イラついていた。
だから、“ベロチュウ”と言われた瞬間、『嫌だ』という思いよりも、『おっしゃ、やったろやないか!』という思いのほうが強く出た。
「「おしっ、わかった」」
「「「「おおおおおっっ!潔い〜〜〜〜〜っっ」」」」
ずいっと、膝を寄せ合い向かい合う二人。
床に置いた手が僅かに重なる。
体温が少し高いように思えた。
その距離3センチまで顔を近づけたところで同時に目を閉じた。
異様に緊張した空気が流れる。
「あいつら、マジでやるかな?」
「しぃいいいいいっっ」
ヒソヒソ会話も二人の耳には届いていない。
自分の心臓の音のほうが五月蝿い。
そろりと舌先を覗かせ、相手を探るように微かに揺れながら進む。
ひた・・・
3センチはあっという間の距離だった。
舌なんて、もっとザラっとした感触かと思っていたのに、まるで吸い付くようだし、唇よりもずっと柔らかくて、フワフワした新しいお菓子みたいで。
ツルリ、ちゅるり・・・
少し伸ばした舌をうねらせ、相手のそれと撫ぜ合わせる。
あ・・・やば・・・っ
これ、気持ち、いい・・・
―――もっと、食べたい・・・!
うっかり二人、同じ思いを持ち、さらに互いを求めそうになったその時、先に我に帰ったのは伸だった。
「・・・っ!・・・も、もう、いいだろっ!」
焦った気持ちを押し隠すようにパーカーの袖口で口元を拭いながら周りを窺う。
と・・・
向かいに座る当麻は、呆けたように固まっていて、他の面々は、食い入るようにこちらを見ていた。
その表情は、エロビデオ鑑賞の時と同じだった。
ただ一人、ナスティだけが、ニコニコと頷きながら笑っている。
伸はなんだか、どっと疲れた。
「いやぁ、お前ら、すげーわぁ」
「うん、なんか感動すらしたな!」
「ふむ!」
「いいもの観させてもらったわ、ありがとねっ、うふふっ!じゃあ、今日はこの辺でお開きにしましょっか?」
各人のこの感想は果たして正しいのだろうか。
それは、伸にも、もちろん当麻にもわからなかった。
ひとつ言えるのは、この出来事が後々のある切欠になったということ。
そしてこの夜の、ちょっと大人な気分の余興を加えた宴会は、これにてお開きとあいなった。
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