あの日青い空の下で 

9月末の文化祭が終わったら、次は修学旅行。
高校2年は、結構イベント目白押しだ。5月には体育祭もあったし。
3年になったらそれどころではなくなるので、高校時代の思い出はもっぱら2年の
間に作ることになる。
ついこの間までは、そのどれもがウキウキドキドキで、楽しくて、楽しみだった。

だけれど、直前の文化祭で、恋の現実と行方を意識し始めた僕にとって、修旅は
浮かれてばかりいられるものではなくなっていて・・・。

一方的に、妙な緊張感が生まれていた。

考えてみたら、僕の当麻に対する恋愛感情、高校生の割には酷く稚拙なものだった。
今更そんなことに気付くのもマヌケだけど。
改めて周りを見渡せば、皆、結構進んでいた。
中学まではおふざけだったその延長が、実はもう言葉だけじゃなくなっていること。
女子も男子も、真剣に悩んで、時に涙していること。
皆、はしゃぐばかりの恋ではなくなっていて、僕は、少なからず驚いた。

そうか、いつの間にか、僕らはどんどん大人に近づいていたんだ・・・。

ずうっと、身近な一人だけに執着して、自分の気持ちばかりに目がいっていた僕。
なんだかすごく子供で、同年代の子たちから取り残されたような気分になった。

そういう意味では、あの文化祭での出来事は、いい切欠だったのかもしれない。
僕にも、来るべき時が来た・・・ってことなのかな。
“好き”の先も、ちゃんと考えなくちゃいけないぞ、って。

そっかぁ〜・・・
その『先』かぁ・・・
その『先』ねぇ・・・

例えばあいつに告ったとして・・・、それで、万が一の確率で、じゃ、付き合うか?って
ことになったとして。
そしたら次は・・・、で、デート・・・?だよな?
一緒に登下校して、休みの日には映画観たり、遊園地行ったり、そんな風に何度か遊び
に行って・・・。
って、ここまでだったら、まぁ、友達とすることと変わんないか。
で・・・、じゃあ、手なんか繋いでみちゃったり、して?

ぅっわぁ〜・・・

でもって、その次は・・・、次は、やっぱり・・・!

あいつ・・・と?

だよね・・・。

うん・・・。

ひーーーっっ!
恥ずかしい〜っっ

でも・・・・・・でも・・・、でも・・・っ・・・

ああそうだよっ、僕は当麻とキスしたい!
してみたい!
し、そ、そのっ、その・・・続きだだだって―――!
(・・・とはいえ、当時はまだ具体的には何にもわかってなかったけど・・・。)

わぁあああっっ!
考えようとするだけで、眩暈がしそう・・・。

とっ、とにかく、だ!
そういう色んな事ひっくるめて、二人で、笑って、ぎゃいぎゃい言いながら、ずっと一緒
にいたい。

うん、そう。
ずっと・・・、一緒に、いたいんだ・・・。

周り人たちを驚かすことになるし、悲しませることになるかもしれない。
ううん。『かも』なんかじゃない。
それはすごく申し訳ないことだと思ってるし、わかってる。
でも・・・、でも、それでも・・・、好きになっちゃったんだ。
自分じゃどうしようもないんだ。
だから・・・、仕方ないだろ・・・。

そうだよ!
男が男を好きになって、何が悪い!
世の中、僕以外にだって男しか好きになれない奴は、うんといるはず。
その全員が、皆辛いだけの片恋をしてるわけじゃない。
周りから祝福されて、幸せを掴んでる人だって、いっぱいいる。
そりゃ、普通の恋愛よりは、壁は数倍高いだろうけど、それでも、“好き”という気持ち
はどうしようもない。
どうしようもないんだもん・・・。
どうしてこんなに当麻が好きで、当麻じゃなくちゃいけないのか?
そんなの、何度も考えたさ。

当麻は・・・、優しいんだ。
いつもは、ひねくれてて、見下した態度で、やいのやいのと突っかかってくるけど、彼は、
根っこのところでは、すごく優しくて、・・・そして、本当はすごい寂しがり屋だ。
それはきっと、彼の家庭環境に起因しているところもあると思う。
けど、彼の性格として、恥ずかしがり屋ってのもあるんだろう。
無駄に頭が良すぎるのも、邪魔をしてるのかも。
甘え下手って感じ?
これが僕の思い込みで、勘違いだったら、そりゃあすんごいマヌケな話だけど。
でも・・・、僕には確信がある。

だから僕は、そんな彼を、抱きしめてあげたい、っていつも思ってた。

恋は甘いだけじゃない。ほろ苦くて当然。それはどんな恋でも同じ。
ただ、僕のそれは、普通の人より壁が分厚くて高いだけ。
分厚いけれど、ぶち破れないとは限らないし、かなり高いけど、乗り越えられないとも限ら
ない。

そう考えたら、少しだけ、気持ちが軽くなった気がした。

文化祭以降、ぐっと苦さの増した僕の恋心。
でも、意外に早々と若干の開き直りが始まっていた。



高校の修学旅行は、京都&奈良だった。
ちなみに中学も、僕等は同じだった。
受験の時は受ける高校の修学旅行先がどこかなんて、まるで考えなかったんだから仕方ない。
とはいえ、実をいうと、遼・征士・秀は、初めてだ。
それは何故か。

中学の修学旅行の3日前、征士は、インフルに罹り隔離された。当然、修学旅行など行ける
はずもなく。
遼は、久々に帰宅した気まぐれ勝手な親父に、いきなり拉致()られ、北アルプスに連れて
行かれた。本来親父が助手に連れて行こうと思っていた男が、これまた流行りのインフルで
倒れたため、即席代理人として。出発の2日前のことだった。
秀は・・・、惜しかった。彼は当日、ちゃんと家を出た。だが、集合時間に遅れそうになって
慌てた結果、駅の階段から落っこちて、骨折。そのまま病院送りとなり、当日急遽不参加と
なった。

そんなわけで、正確には、幼馴染5人衆のうち、2度目なのは当麻と僕だけ。

なんだけど・・・

少しだけ気まずい思いを抱えてた僕は、ひっそりちょこっと当麻が、同じとこなんか行かねー、
って言うのを期待してたけど、さすがにそんなことはなく。

やっぱりそうだよね・・・という落胆と、ああっどうしようっ!という焦りに、一緒に旅行が
できる!っていう嬉しさも加わって・・・。
いっそう変にドキドキしたりなんかした。

ただまぁ、決まってしまえば、やっぱり楽しい思い出を作りたい。
そう、これが終わったら、僕等も本格的に進路を固める時期に入る。
この先は、さすがにもう、5人一緒というわけにはいかないのは分かっていた。

だったら・・・、貴重な最後の5人一緒の学生旅行、皆で思いっきり楽しまなきゃ!
僕は、気持ちを切り替えた。
もちろん、モヤモヤがスッキリ消えてなくなったわけではないけど、この時の僕には、思い出
づくりのほうが大事だったから。

ところが、僕のこの意気込みは思いっきり空回りした・・・。

いや・・・、空回り、というか、意外な展開、というか・・・。




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