あの日青い空の下で 10

二学期の中間試験が終わって、僕は、頭の中で指折り数えていた。

あと、1年と5ヶ月。
まだまだある、と思っていても、振り返ればきっとあっという間、ってことに
なるんだろうな、ってのは、わかっていたけれど、僕は何をどうしたらいいか、
というか、何をどうすべきなのか、いや、もっと根源的に、そもそも、その
“何か”が何なのかすらも、さっぱりわからないでいた。

違う。
わかっているのに、目を背けようとしていた。

大事にしたい5人の関係。
特別にしたい、自分の気持ち。

とにかく、優柔不断もいいとこ、相変わらず、不安になったり、安心してみたり、
焦ったり、余裕があるような気がしてみたり、あっちユラユラ、こっちフラフラの、
行ったり来たりグルグル迷走の日々。

そんな中、次にやってきたのは、進路調査だった。

まさに、ここが運命の分かれ道。
本当の意味での、人生のスタート、そんな感じがした。


僕は美大を受験しようと思っていた。
書道を極めたいってずっと思ってたけれど、美術全般好きだし、美術史にも興味が
あったし、師匠からも教養を身に着けることは決してマイナスじゃないから、大学
へ行くように言われていた。

征士は国立大だ。
彼には幼いころから確固たる将来設計があり、それはずっと変わらない。
彼はいずれ国際捜査官になるのだそうだ。
その目標を達成するため、彼はひたすら自分に厳しく、精進してきた。
そして35歳までに優しく聡明な一般女性と結婚して、11女を儲ける。
ここまではもう確定らしい。

大兄弟の長男である秀は、企業経営者である親からかなり期待されていた。
そのため、今のところは大学へ行く、と言ってあるらしい。
けれど本当はずっと、料理人になりたいって思ってることを、幼馴染の僕らは知っ
ている。
だから、こっそり調理師免許のとれる大学or専門学校を探すのも手伝ったりして。
秀にとっては、その話をいつ親に切り出すか、目下のところ、それが最大の悩みだ。

遼は、大学には行かない。
例の父親は、彼の進学にも全く無関心。確かに、あの人の生き方を見てたら、子供に
どうこう言える立場じゃないとは思うけど・・・。ともかく、お前の好きにすればいいと、
言われている。
で、彼自身はどうしたいのか、というと、驚いたことに、彼もフォトグラファーになり
たいのだそうだ。
専門学校へ行くか、プロのカメラマンについて修行するのか決めかねているとのこと。

そして当麻は・・・、というと・・・。

「あん?俺?俺は・・・そうだなぁ〜、どこでも、その時行きたいとこに行くさ」

だって。
で、結局、奴が何をしたいのかは、よくわからないままだ。

ふんっ、なんだよ、恰好つけちゃってさ。
小3までオネショしてたくせに。

と、まぁ、そんな話は、置いといて。

こうして考えてみたら、僕等の視線は、実はもうとっくのとうに、別々の方角を向いて
いたことがわかった。

それを具体的なカタチにしろというのが、進路調査で。

改めて、つくづく思った。

つまりこれで、10年以上続いた僕等の腐れ縁も、いよいよ終わるんだ、ってことを。

人生のほとんどを共に過ごしてきた十数年の濃密な時間が、ぱっと散る。
寂しさの予感みたいなものが、纏わりついて離れない。
ぬくぬくの金魚鉢から海に投げ出される心細さと、夢を持って大海へ泳ぎだす昂揚感
を伴って。


そうして半年後。


激震が走った。




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