あの日青い空の下で 12
「聞いたよ。で?」
「あん?」
次の日の朝、僕はたまたま登校途中の道で当麻と出くわした。
ぅーす、と、軽く挨拶をして、暫くは黙って歩いた。
こうして、僕の登校時間帯に彼と顔を合わせることは滅多にない。
それでも昔ならば・・・、それがもういつのことだったかは思い出せないけれども、
それでもほんの1年前までなら、くだらないことを言い合って、小突き合って
歩いたであろう道。
けど今は違う。
そう、少なくとも、今朝は。
このタイミングで会えたのなら、振る話題はひとつだ。
「で?いつ帰ってくるんだよ」
ただ、彼が“遠くへ行く”ことのほうは、まだ具体的に考えたくなかったのだろう。
僕の口をついて出たのは、もっと先のことだった。
けれども当麻の答えは・・・僕が期待していたものではなかった。
「んなの、わかるかよ。向こうの大学は、入るのは簡単でも、出るのは難しいからな。
ずーっと学生やらされるかもしんねぇし、飛び級であっという間に卒業して帰って
くるかもだし、でもそのまま向こうでなんかの研究続けるかもしんないし、会社立ち
上げちゃったりするかもしれんしな。先のことなんて、その時になってみなきゃわか
んねー。だろ?」
だと。
まったく、いちいちご尤もで腹立たしいったらない。
「そう・・・だけど・・・」
だけども、それでも帰ってくる気持ちがあるのか、それだけでも知りたいじゃないか。
ずっと行きっぱなしだなんて、思いたくない。
少なくとも、僕は・・・。
「お前だってそうだろ?」
「え?」
久しぶりに、真っ直ぐな彼の視線を受け止めた。
胸が高鳴る。
少し苦しい。
それに、ちょっと後ろめたい。
「誰だって、将来どうなるかなんて、わからない。特に、お前みたいな、ゲージュツの
世界なんて、さ。まさにそういうもんなんじゃないのか?ん?」
立ち止まり、口の端を釣り上げて笑う。
小馬鹿にされたみたいに感じて、僕はむっとした。
「そんなの・・・っ、わかってるよ・・・」
君に言われなくたって、わかってる。
でも、信じなきゃ、叶う夢も叶わない。そうだろ?
そんなクサい台詞は出てこなかった。
当麻は、ポケットに両手を突っこんで再び歩き出した。
後ろ姿を見送る僕の目には、彼の未来だけが、明るく、洋々と広がって見えた。
一方、反比例して、自分のは萎んでいくみたいに感じた。
その嫌な予感めいたものを振り払うように、僕は駆け出し、当麻の膝裏を自分の
膝で押し、そのまま横を駆け抜け、振り向いてあっかんべーをした。
技は見事に決まっていた。
「ぅおおっ!〜〜〜っ!・・・っめぇ〜っっ、おいっ伸っ!」
「ザマーミロっ、当麻のくせに、生意気なんだよっ!」
「んっだとっ、待てこの野郎ーっ」
そう、ずっとこんな風でもいいじゃないか。
それ以上を望むのは、本当は間違ってるんだ。
間違ってる。
僕が・・・、間違ってる。
でも―――
間違ってるんだとしても―――
もう、これだけじゃ、足りない。
じゃあ
だったら
どうしたらいいんだろう?
このまま何もしなかったら・・・
僕の気持ちは、いつまでもいつまでもこのまま宙ぶらりん?
彼が帰ってくるまで、ずるずる引き摺れって?
それって生殺しだ。
・・・いや、やっぱり違う。
彼がどこへ行こうが、関係ない。
僕のこの想いは、こうして当麻を目の前にしても、告げることはできないのだから。
でも、僕、それで本当にいいのか?
本当に、後悔しないか?
後悔、しない?
後悔・・・したく―――ない!
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