白く滑らかな肌、桜色の唇、煌く茶色の瞳、細い手足、器用な指先、そのどれもが俺の心を捕らえ、強く揺さぶった。
今まで俺に言い寄ってきたどんな者共より、俺が口説いたどんな奴らよりも、比較にならないほどに俺を惹き付ける。
柔らかく押し倒し、肌蹴た襟から首元に顔を埋め、深く息を吸った。
大人になった彼の放つ香に、俺はまるで酩酊したかのような眩暈を覚えた。
顎を伝い這い上がると、ふっくりとした箇所に到達した。
自分の唇を押し当て、舌先で入口を突くと、彼は素直にそこを開けた。
彼の普段の口もこのくらい従順なら可愛いのだが・・・と思い、すぐに打ち消した。
俺は、彼とのあの会話も好きなのだ。
初めはゆるゆると纏わり着かせ、そして次第に、激しく強く、舌を吸い絡めていく。
角度を変え、息をも奪うかの如く咥内を蹂躙する。
あまりに蕩けるように甘く、その舌を思わず噛み切ってしまいそうだ。
淫らに響く水音も、掻き乱すように夢中でしがみついてくる腕も愛おしい。
俺たちは今、混乱しているのだろうか、それもと、絡まった糸を解き、結びなおしているのだろうか。
そんなことをふと思った。
唇を合わせたまま、俺は自分の着ているものを剥いだ。
数刻前まで体中が痛くて軋んでいたのが嘘のようだ。
彼を欲する衝動が痛みを上回ったということか。
自分の身体ながら奇妙なものだ。
彼の背に腕を回し、素肌を密着させると、伸の鼻奥から、欲に濡れた息が零れた。
するとそれに呼応するかのごとく、俺の内に火が点いた。
甘い疼きを伴う痺れが中心へと流れて込んでくる。
俺は、早く繋がりたいと思う衝動に任せ、彼の着物の裾をたくし上げ、膝を割り開いて、その間に身体を納めた。
彼の性器もすでに頭をもたげており、俺の腹に当った。
伸は、男に“組み敷かれる”ということに抵抗がないようだった。
しかも、こうした行為で素直に身体が反応するということは、既に男を知っているのかもしれない。
早いうちから勤めに出ていたし、いかんせんこの容姿だ。
とっくにお手つきされていてもおかしくはない。
それどころか、されていないほうがおかしい。
だからといって、それで俺の中の彼への愛情や価値が下がるわけでもないが、やはり悔しい。
だが、これからは、俺のものだ。
俺一人だけの。
邪魔な細帯を取り払い、露わになった彼の肢体、そのいたるところに所有の印しをつけていく。
唇を寄せ、舌で探り、歯をあて、食む。
都度、跳ねる身に、俺の気は擽られた。
顔を上げると、反った顎と伸びた首の線が目に映った。
ここに噛み付いてくれと言っている。
俺は言われるがままに行動した。
彼は、静かな村の夜に声を抑えたいのか、羞恥からか、己の指を口に運んだ。
その仕草ひとつで、胸は熱くなる。
伸の表面も、しっとりと汗を滲ませている。
その熱を肌で感じていながら、俺はまた、寒くないかと、彼の耳元で囁いた。
少し意地悪だったかもしれない。
はっと息を震わせ、潤んだ瞳を俺に向けてきた。
眉間に寄った皺が堪らなく可愛いく見えて。
舌で、目の前の耳たぶを弾き、それから小さな穴の入口をひと舐めして、中へ捩じ込むと、抑えきれなかった嬌声が彼の喉から迸った。
胸の小さな尖りを嬲れば、身を捩る。
互いの雄を擦り合わせれば、そこは熱と要を増し、先端から滲み溢れる液に濡れそぼる。
了解をとるつもりはなかった。
彼の、伸の全ては、俺に捧げられたのだ。
後ろの孔へ指を差し込むと、彼は短い悲鳴をあげた。
相当久しいのだろう、固く狭いそこは、まるで生娘と言っていい。
この場所を、俺のものを受け入れるまでにするには、かなりの労力がいりそうだ。
だが既に、彼の股の間で扱かれ硬くなった俺の肉棒は己の腹に着くほど力を貯えている。
額から汗が数滴離れてった。
俺は、はやる気持ちを抑えつつ、身体の向きを変え、彼に獣の体勢をとらせた。
そして、もう一度指を入れ直し、かき混ぜ押し広げ、その数を徐々に増やしていった。
苦痛が勝るのか、それとも同時に慰められている幹を感じているのか。
伸は、腕の間に横向きに顔を埋め、脱いだ着物の裾を噛んでいる。
その様は、俺の中に嗜虐的な欲望を掻き立たせた。
と、彼が、突如身を捩り、布越しにもわかるほどの、色を帯びた高い声を発した。
くぐもってはいるが、先ほどまでとは明らかに違う。
偶然に触れたそこを、俺はもう一度探し出し、今度は執拗に、押し、擦り、引掻いた。
襲いくるその刺激に、伸はうねるようにしてその身を痙攣させた。
左手の中にある彼も、はっきりとわかるほどの反応を示し、再び甘く匂い立つ汗が吹き出てきた。
俺の下でもがく彼の姿は、堪らなく俺を煽る。
これ以上はもう無理と、指を引き抜き、入れ替わりに怒張した俺を宛がった。
滑(ぬめ)る頭頂部が、解された入口に吸い付く。
その感触に、伸が大きく息を吸った。
そして俺は、吐く息にあわせ、彼の中へと、唸りと共に、固い己の先端をめり込ませた。
再び身体を固くして全身で苦しみを表した彼の、前を愛撫し衝撃を和らげてやる。
それから、早く全てを埋めてしまいたいという願望と戦いつつ、亀頭のみを何度も何度も出し入れし、彼との具合を確かめた。
伸も必死で歩調を合わせようとしているのが伝わってきて、愛しさがいっそう増す。
そうして、漸く彼から力が抜けてきたところで、俺は、一息に根元まで突き入れた。
彼の背が弓形に撓(しな)った。
きつい締め付けに、俺の喉からも知らず呻き声が漏れる。
彼の内部は想像していた以上に熱い。
浅く深く、緩く早く、彼の奥の、さらにその奥を破れそうなほど突き回し、かと思えば抜けんばかりに引き抜いて。
動きと向きを変えながら、彼の中を存分に、狂ったように味わう。
そうしているうちに、皮を剥かれそうなほどだった内壁が、一転、まとわり着くように蠢きだした。
俺の先端から溢れた汁と、おそらく彼の裂けた部分から滲み出た液。
混ざり合ったそれによって動きは格段に滑らかになり。
俺たちのこの行為は、得も言われぬ心地よさへと変貌していった。
快感の波が怒涛の如く押し寄せる。
激しい抜き差しをこれでもかと言うほどに繰り返し、内側を擦り上げ掻き混ぜる。
伸も、求めるがままに腰を揺らし、齎される甘く痺れる感覚を必死で追っている。
腸道は、彼の意思とは関係なく俺を扱き、絞り上げてくる。
高みに昇るのだ!
あとはもう、目指す頂に向かい、ただただ二人で駆け上っていくだけ。
絡む手足。
溶け合う息。
肌のぶつかる音。
粘着質な音。
ある所では、荼毘にふした家族や勇者の骨を食う習慣があるという。
そうすることで死者は永遠に生きた者へと引き継がれてゆくのだとか。
伸は一度死んだのだ。
だから俺は伸を喰らう。
そして伸は俺の中に溶ける。
身体を重ね、魂をひとつにする。
全てで互いを感じているこの瞬間。
これが交わるということ。
これが繋がるということ。
これが契るということ。
白い光が頭の中で、瞼の裏で、瞬き始め、解放の時がいよいよ訪れようとしていた。
伸も時期限界を迎えそうだ。
汗に淡く光る捩れた背。
その先で、溢れた唾液が夜具を濡らしているのが目に入った。
布を噛み締めたままの口元から、堪えきれない嬌声と、荒い息遣いが漏れ聞こえてくる。
なんと淫猥な姿か。
いつもは冷たいほどに冴えている脳が、まるで沸騰したかのように興奮し、思考は朧になり、この世の境すら曖昧になる。
揺さぶり揺さぶられ、本能の命ずるままに動きは激しさを増していった。
この恐ろしいほどの熱をもった塊。
爆ぜる時は、もうすぐそこだ。
体内に渦巻く熱い熱い奔流が、出口を求め猛然と襲いくる!
と―――
突如身体が硬直し、頭の中は白一色に塗りつぶされた。
俺は咆哮し自身を引き抜いた。
そして、体を震わせながら、仰向けにさせた彼の腹の上に、白濁した粘液を数度にわたって撒き散らした。
見下ろすと、伸も腰を突き上げ、不随意にその身を跳ねさせ、掠れた悦びの声と共に、性を吐き出していた。
この上ない快楽と至福。
生を実感する瞬間。
俺が過去、経験していたあれは何だったのか。
同じことをしていたはずなのに、何もかもが異なっている。
これほどに、哀しいほど苦しいほど、叫びたいほどに、幸せに喜びに満ちた時を、俺は知らない。